凍りのくじら

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癒し⑤シリアス③ミステリ②
辻村深月凍りのくじら (講談社ノベルス)講談社,2005


遊んでる子ともまじめな子とも、周りとあわせることでどのグループとも仲良くやっていく女子高生・理帆子の話。冷ややかな目で他人を見下しており、自分の居場所はないと思っています。
そんな理帆子は読書が大好きで、失踪した父親の影響を受けてか、中でもドラえもんを心の拠り所にしています。ちなみに、章タイトルはドラえもんの道具になっています。会話の中でも、独裁スイッチやどこでもドアなどの名前が出てくるので懐かしくなったりも。
ドラえもんの影響で、理帆子の癖の一つにSFを使った言葉遊びもありますよ。藤子先生のSukoshi・Fusonzai(すこし・ふしぎ)のような言葉を、人に当てはめていくんですね。理帆子自身だったら、Sukoshi・Fusonzai(すこし・ふそんざい)みたいに。すこし可愛らしいと思っちゃう。


理帆子に大きく絡んでくるのが、元カレの若尾でありひたすらにダメな男です。怒りっぽいし自尊心を守るために責任を周りに押し付けてばかり。しかし、理帆子はずるずるとカレとの縁を引きずっていくわけです。
壊れかけてからは怖いの一言。ただなんとなくですが、この前読んだ漫画でアスペルガー症候群というのをやっていて、若尾はそれじゃないかと思ったりも。言葉尻をそのまま捕らえたりするところとかね。どうなんだろう……。
若尾のわがままにちゃん対応しなかった、周りの大人にも原因があるってことなのかな。若尾が大人だとは思えませんから。


そんなわけで、自身の性格や若尾との関係などで鬱屈した生活をしていた理帆子ですが、別所という先輩に写真のモデルになって欲しいと頼まれてから変わってきます。別所が相手だと、ドラえもんが大好きだと打ち明けることができましたし。徐々にいい方向へと流れていく感じは好みです。
別所のセリフ「来月の新刊が楽しみだから。そんな簡単な原動力が子どもや僕らを生かす」には面白いと思ったり。確かに深いテーマがあるとかないとか以前に、楽しかったかどうかが大事ですもんね。
偶然町で見かけた少年・郁也と家政婦の多恵のやり取りは心温まりますな〜。理帆子と母親のやりとりもよかった。
真剣に向き合ってもらえなかった母親とは、確執もあったりもしますけどね。その母親は現在癌で入院中ですが、とある仕事をすることになります。最後の仕事の出来はすばらしいものだと思いますよ、ほんと。


周りにいい顔ばかりしてるのにあっさりしてるところなど、序盤の理帆子のスタンスに共感する部分が多々ありました。理帆子のように小学校からとかではありませんが、本をたくさん読んでる部分も似てるとこかな。
今の私自身に不満があるからなのかどうなのか、この物語の理帆子に憧れてしまいます。少し不思議な経験をすることで、閉じこもっていた自分の世界を抜け出し光を届けられるようになりたい。
と、この本の世界に逃げ込んでいる時点でだめでしょうか。本の世界だけでなく現実も見据え始めた理帆子とはほど遠い場所にいるようにも思いますが、きっと気のせいです。まあ、ぼちぼち生きていきます。


最後の展開は驚いたけど、すごく納得のいく結末。微妙に人間関係がわかんなくなるところがあったけどこのためか〜。これはうまい。テーマと無茶苦茶フィットしてます。心打たれました。
……まだ読んだことない人だったら、まっさらな気持ちで読んで欲しいと思います。私の感想も忘れてください。ひみつ道具の一つで記憶を忘れさせる棒「ワスレンボー」で、えいっとな。 (゜゜☆\(--メ)ポカッ


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