橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ

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癒し5コミカル3シリアス2
橋本紡橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ文芸春秋,2008
橋本紡さんの作品感想


水の都・深川を舞台に描かれる短編集です。最初は、久しぶりに戻った実家付近の、変わってしまった風景に戸惑う有香の話「清洲橋」資料館での弟との電話でつながったやりとり「仕方ないから、ちょっと雨宿りしていく」にくすりとしてしまいました。
半分しか見えない花火とか印象的でしたが、二つ目の年を取ったバーテン・耕平の話「亥之堀橋」では、がらりろまではいかなくても、ずいぶんと雰囲気が変化したような。耕平の視点で変わっていくものが描かれてはいるものの、受け止め方がいいのか、寂しさが前面に出てはいません。
だからこそ、人情味溢れる話に繋がっていくわけで。この境地に達するには時間かかりそうですが、ちょっと憧れるかも。


進学校で上位の成績を維持する陸の話「大富橋」陸は受験生でもあり、色々と悩むことがあるんだけれども、それを自分なりの納得で済まし、包括的に受け止めます。そしてそれを、否定も肯定もしないでくれる友人の存在が大きかったように思います。私もこういう友人がいるから、毎日楽しく過ごせているんだろうなと認識を改めたりも。
唯一の書き下ろしだからか、不倫の話である「八幡橋」はちょいと異質だったかも。最後まで読んでも、橋を渡り始めていない印象を受けましたから。橋は見えてても、橋の行き先が見えてない様子でした。


新居を探しに歩く哲也と美穂の話「まつぼっくり橋」これが好みの雰囲気で大変楽しませてもらいました。エアコンもないし窓も開かないけど素敵なデザインだと哲也が推す物件と、安物だとけなされるもピカピカな物件だと美穂が推す物件を巡る話なのですが、こういうのいいなー。
哲也の友人・嶋田も絡んできての結末は、ハキュンとしてしまいました。男はバカばっかだな。笑いどころもチラホラあって、とっても好きな作品です。
最後は、祖父のエンジと夏の間暮らすことになった十歳の少女・千恵の話「永代橋」エンジとの生活でカルチャーショックを受ける千恵がかわいいな〜。「いっぱい言葉を交わしておかないと、たまらなく不安になるからだ」辺りに、私の守ってあげたい心が揺さぶられましたよ。
たくさん言葉を交わしていたはずなのに、大事なことは口に出していなかった千恵の叫びや、エンジが仕掛けたからくりにはニヤニヤ。


ドキドキワクワクするわけではないけれども、読み終えてよかったと思える本でした。自分の居場所が分からなくなって迷子になってしまったときでも、一人でも他の誰かと交流があれば、橋が架かっていれば大丈夫なんだと安心することができましたよ。


この小説が好きな人にお勧めする3
1 彩乃ちゃんのお告げ  Amazon2 風に舞いあがるビニールシート  Amazon3 揺れる夏 追憶の橋  Amazon
1、橋本さんの小説『彩乃ちゃんのお告げ』少し不思議な能力のある彩乃ちゃんが登場する話。→感想
2、森絵都さんの小説『風に舞いあがるビニールシート』緩急絶妙な短編集。→感想
3、鎌田敏夫さんの小説『揺れる夏 追憶の橋』橋の上で年に一回行われる同窓会の話。