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癒し10
橋本紡もうすぐ』新潮社,2009
橋本紡さんの作品感想




ネット新聞の記者の由佳子と主夫の哲也の会話など、何事もない日常がとてもまぶしく見える光景はいつも通り素敵。また、哲也の存在や猫や料理の描写があるので、いつもの橋本さんの小説です。
でも、これまでと感触が少し違います。親の不在というこれまでの物語での重要なキーが、今回は不在どころか親そのものがテーマですから。


出産経験に対する読者体験談が載せられています。記事として載せられている文章だろうから、感情表現豊かに描かれているわけじゃないのに、伝わってくるものがありました。というか、基礎知識だけでも驚きの連続。
私は流産の確率の高ささえ知らず、今の医療体制なら大抵無事に生まれると勘違いしていましたよ。タイムリミットの話は少し想像できないほどの焦りが伝わってきましたし……最初の2編だけで圧倒されてしまいました。


一番びっくりしたのは、診察と出産は別だということ。お産難民という言葉の意味をようやく分かった気がします。
ただ、特権階級の人々が相手をモンスターと認識してる話は、一理あるとは思いましたが、辛口すぎるような。私が遊んでいたときも勉強していたんだろうし、何倍も重い責任の仕事をしてると思うと、なんかね。


こんな話題をするのは恥ずかしいと言ってられる年は過ぎたかな。
答えなき答え」という章タイトルが妙に心に残りました。一人一人答えは違うだろうし、この本を読んだからといって、答えが出せるものでもないでしょう。ただ、いいきっかけとなったとは思います。


この小説が好きな人にお勧めする3
1 橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ  Amazon2 風に舞いあがるビニールシート  Amazon3 ふにゅう  Amazon
1、橋本さんの小説『橋をめぐる―いつかのきみへ、いつかのぼくへ』短編集。→感想
2、森絵都さんの小説『風に舞いあがるビニールシート』緩急自在にコントロールされた短編集。→感想
3、川端裕人さんの小説『ふにゅう』お父さんと子供の関係を描いたコミカルな短編集。→感想