九つの、物語

九つの、物語  Amazon
癒し6恋愛2コミカル2 <ピックアップ2>
橋本紡九つの、物語集英社,2008
橋本紡さんの作品感想


レッチリの激しい曲の合間合間に、ひっそりと本を捲る音が聞こえてくる……こんな素敵描写をされたら、ときめかないほうがおかしいと思う。突然家に帰ってきた禎文と妹のゆきなの物語。
兄妹のゆるゆるな会話が魅力的なのですが、スパイスはずばりそのものの料理と、古本です。九つの話が収録されていますが、料理と小説の描写は欠かせません。
章タイトルに掲げられた作品には毎回触れられますし、料理好きな禎文が「腹、減ってないか」と尋ね、ゆきなが「あ、減ってる」と答えるのも毎度のこと。


橋本さんの物語は中性的なものが多い印象なんですが、今回は男性に強くお勧めします。妹のゆきながとてもかわいくて、禎文が作る料理と間違えて食べてしまいそうになるくらいなので。
彼氏である香月と腕を組んだり腕にしがみつきたいと思いつつも「なんだか、もったいない気がしたからだ。」と考えて実行しなかったり、行動すべてが清く正しい妹なんだよね〜。
読んでいる最中に、ゆきなのためにも正しいお兄ちゃんにならなくちゃとか考えてしまうから不思議。


といいつつ、中盤以降は女性にもプッシュしておきたいかも。シスコンっぷりが禎文の彼女を通して語られたり、素敵なお兄ちゃん像が出来上がってきますから。
禎文がゆきなの友人・紺野くんにするお願いをする場面は、もう心臓鷲づかみのベストシーン。一生ついていきますぜ兄貴レベルです。私なんかに好かれても仕方ないと思うので、世のお綺麗なお姉様やゆきなより私の方がかわいいと思う全国の妹さんは、ぜひこの物語を読んで禎文にときめいて欲しいのです。心底そう願います。


さてさて、いないはずのお兄ちゃんの不思議に、二人ともなかなか深くつっこまないんですよね。
なんていうか、料理の説明をするときも、小説の感想を語るときも、今の不思議な状況を話すときも、家族にまつわる避けたい話題のときも、恋愛について考えるときも、同じような距離感で描かれているような気がします。
つかず離れずの距離をものすごく大切にされています。序盤の穏やかな雰囲気はこれが理由なんだろうな〜。


ただ、ずっと変わらない距離なんてあるはずもなく。同じ速度で同じ方向へ動くなんて至難の業ですもん。どんなにどんなにべったりな二人でも、年が経てば、環境が変わっていけば、二人は徐々に離れていってしまうものなのでしょう。
それは寂しくないわけじゃないけど、例え離れてしまっても兄妹ということに変わりないんだし、距離が測りあえる関係であるならそれでいいのだと私は思いました。


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