容疑者の夜行列車

容疑者の夜行列車  Amazon
シリアス8癒し2
多和田葉子容疑者の夜行列車青土社,2002
多和田葉子さんの作品感想


このコラムを読んで手にとりました。仕事のため先を急いでいるのに、ストライキで夜行列車が止まってしまう話や旅先でできた妙な縁にまつわる話が収録されています。ウィーンの二人の女性の顛末はすごく気になりました。
パリ、グラーツベオグラード、北京など異国情緒あふれる描写がなにより素敵。国が違えば法律や常識なども違ってくるわけで。走行する列車のように揺れる心情も共感できてよかったのですよ。がたんごとんと。
緊張と不安ましましな雰囲気に加えて、「あなた」と語りかけてくる文章の呼吸に心がざわめきます。旅行先ってわりと客観的に眺められるはずなのに、そんなところで二人称で呼ばれるとドキッとしませんか?


身近に感じられた「阪急電車」と違って、もう時代も変わっているし現在ではもう経験できない旅のような気がしてきます。その国へ行っても触れることができないような幻想的な感触。多分、出不精な私の勘違いも含まれているでしょうけれども。
夜行列車で寝ている間の、旅への期待と不安が入り混じった夢物語を見終えたような、忘れたくないけど忘れてしまいそうな奇妙な読了感。


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