じいさんとエロキャラの親和性についてシリアスxミステリ


樋口有介月への梯子文藝春秋,2005   類似検索


この前読んだ樋口さんの作品は直木賞の候補だったようですね。もう十五年も前の話になってしまいますが。
さてさて、今回の主人公は障害を持っており頭がゆっくりとしか動かない「ボクさん」そんなボクさんが大家をしているアパート住む人たちが主な登場人物。ボクさんは周りに助けられ幸せに過ごしているのですが、ある日アパートで起きた殺人事件をきっかけに今まで気づかなかった善意以外のものを知り始めます。まあ、私は悪意ばっかりじゃなくてよかったなあと思うわけです。
事件後、アパートの住人は全員失踪してしまうという謎の状況。一体誰が犯人なのか、またみなはなぜボクさんの周りから消えてしまったのかなどの疑問に、ボクさんが挑みます。事件を軸に物語は動くのですが、事件の謎そのものよりもキャラがいい。失踪したはずの物船じいさんがいいキャラです。アパートを離れた原因とその後の刑事とのやりとりなどが笑えます。もちろん、一番魅力的なのはボクさんです。知らなくてもよかったことに気づいてしまいながらも、自分の意思で動くことをやめないボクさんが素敵なのです。下品なボクさんの一面もみれますが(笑)
そんなボクさんの姿に当てられて、最後はホロリとできます。……最後から十五ページ前までは。この物語を読むと、何が幸福なのか分からなくなります。やっぱり、幸福は他人が測るものではなく、自分自身が感じ取るものなのでしょうか。この結末はあんまりだと私が思っても、ボクさんにとっては違ったんでしょう。文字通り、本来なら知ることができなかったはずの真相を知ることができ、ボクさんは幸せだったのかも知れません。


③ 天の前庭② アルジャーノンに花束を① 風少女
この小説が好きな人にお勧めする③
①樋口さんの『風少女』第103回直木賞候補作です。→感想
②ダニエルキイスさんの『アルジャーノンに花束を (ダニエル・キイス文庫)』ドラマにもなった有名な作品です。
ほしおさなえさんの『天の前庭』ミステリのような幻想っぽい感じです。→感想