砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない

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桜庭一樹砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)富士見書房,2004


生きていく力、実弾が欲しいといって憚らない山田なぎさと「ぼくはですね、人魚なんです」という突拍子もない自己紹介をする海野藻屑という、二人の少女の話。
藻屑はところ構わず二リットルのミネラルウォーターを飲みつくす、エキセントリックなキャラ設定。むーさんの可愛らしいイラストとあいまってプリチーです。うさぎを睨みつけている藻屑もブランドもので身を固めた藻屑もよいですな。
あとがきの女流作家との交換日記の話は笑った。さすが桜庭さん、あとがきまで楽しませてくれます。


なんて書き出しましたが、これは一種の逃避行動です。物語の本編は初っ端から藻屑の暗い結末が提示されていてへこみます。完膚なきまでに未来を潰されているんだから、楽しい要素はほとんどないわけです。未来がないって本当に寂しい。
なぎさも現代の貴族である兄の友彦がいたり、妙に冷静な視点を持っていたりと複雑そうですが、藻屑の奇抜さにはどうしても負けてしまう。前述の自己紹介のように現実が見えてないんじゃないのかと思える部分は痛々しいし、「好きって絶望だよね」とかつぶやいてるところは嫌な気分になってくる。山に犬を捜しに行くところなんて、もう目を背けたくなった。


鉈とかヤバイクイズとかサイコロジカル・ミスディレクションなんて単語が印象的ですが、話の間に挟みこまれる話からも、暗鬱としたものしか考えたれません。名前の通り藻屑のように、抗うこともなくただ受け入れるしかできないなんて辛すぎる。
なぎさのいう実弾は十三歳の少女にはなかなか手に入れられるものではないし、藻屑の持つその身を削って作ったであろう砂糖菓子の弾丸では何も撃ちぬけないでしょうね。他人を傷つけようと思っても武器がないから、戦うことができない八方塞な状況。
むしろ、砂糖菓子の弾丸では自身の甘さで敵をおびき寄せてるだけのような気がする。砂糖菓子を自分の武器に使うにしても色々あると思うのに。親が拳銃ではなくて他のものを藻屑に与えていたら、砂糖菓子の本当の魅力を伝えていたとしたら、こんな結果にはならなかっただろうにと思わずにはいられない。「生き抜けば大人になれたのに……」の言葉が重い。


力のない二人の少女が受け入れることしかできなかったように、私もこの物語を受け入れるしかできないんだけどさ。物語を改変できるような力、実弾というかペンが欲しいです。ペンは銃よりも強し。うまいこと言った?


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