人のふり見て我がふり直せシリアスxラブ


西村賢太どうで死ぬ身の一踊り講談社,2006


表題作は第134回芥川賞候補作。ほかに「墓前生活」と「一夜」が収録されています。どれも、公園で凍死した作家・藤澤清造に偏執する男の話。この男の作家への思いは普通のものではなく、住職にお願いして追悼供養のお経をあげてもらったり、果ては部屋に墓地を作ってしまうほど。決して裕福とはいえないのに、部屋は藤澤関連のものですごいことになってますし。
墓前生活」墓標をもらえるように男が寺に頼み込む話。やたらとこの男が難しい言葉を使うし、お寺関係の言葉も出てくるので所々読めない漢字もありました。さらにこの男は、手持ちがないくせに趣味にはトコトンお金を使うし、でも変なところでケチだったりと嫌らしいったらありゃしない。だから、最初はのめりこめなかったのですが、会話をする場面あたりから急に読みやすくなりました。男に対してむかついていたはずなのに、最後はよかったなと思えてしまう不思議。
どうで死ぬ身の一踊り」藤澤の追悼会まで開くんだから筋金入りですな。藤澤の話と平行して語られるのが同居人の女の話。女に対する態度もまたひどい。しゃべりかたも鼻につくし、短気で手をあげるのも早い。そのくせ生活は女に頼り切っており、自分は相変わらず藤澤に傾倒してるときては最低としか言いようがない。女からのセリフ「やっぱりあなたは清造運だけはいいわ」には納得。
随所で男の身勝手な描写が出てくるので、いたたまれなくなってきます。藤澤についての講評を書いたり講演会を開いたりしても、そのことをやたら自慢したり逆に不安になったりと気持ちの揺れ具合が激しい。この男の二面性は女との関係にも当てはまり、普段はやたらと高圧的なのに逃げられると泣き落としにかかるヘタレさが魅力的。出て行ってしまった女に携帯で謝り倒してるところは笑っちゃったよ。それに、罵倒してるのか謝ってるのかよく分からない、支離滅裂なセリフを履き捨ててるところも楽しかった。ダメ男具合はオブラートに包まれておらず、本当に最低な男として伝わってくるのですが、笑って見下していると何故だか自分の心がつつかれているような気分に。共感とまではいかなくても、妙な感覚になってしまうのです。おかしいな、なんだか面白かったぞ。
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