思った以上に歯ごたえがありましたファンタジーxクライ


多崎礼煌夜祭 (C・NOVELSファンタジア)中央公論新社,2006


第2回C★NOVELS大賞受賞作。webの感想を読んで手にとりました。島が円状に並んでいたり船が浮いているなどわりと特殊な世界で、仮面をつけた語り部たちが火を囲み、各々が知っている物語を話して聞かせる煌夜祭を舞台にしたお話。ナイティンゲールとトーテンコフという二人の語り部が交互に物語っていきます。
魔物が徘徊するという夜に一人の語り部が宿を借りる話「ニセカワセミ」勝手な侵略から国を守るために少女が一計を案じる話「かしこいリィナ」体が病弱で部屋からも出ることができない少年の話「魔物の告白」役立たずとして家を追い出されてしまった少年の話「七番目の子はムジカダケ」魔物の王子と一人の語り部、そして王位を巡る戦争の話「王位継承戦争」鬼神の如く活躍をみせる黒騎士の話「呪い」命を救われた語り部の話「すべてのことには意味がある
以上七つの話が語られます。最後の章題でも匂わされていますが、一見関連性のないように見えていたこれらの物語が、複雑に絡み合って終結する部分は圧巻。読んでる最中に魔物や語り部などの世界背景が徐々にはっきりしてくるし、登場人物たちにも関係性を見出せます。情報が小出しされるので、読みながらも色々と先を想像して楽しんでいました。
もちろん一個一個の話も小粒ながら面白かったです。雰囲気もすごくよく出てたと思う。少女を救うために体を張って行動する四話や、比較的多くの頁を割いて語り部と王子の絆の強さを描き、また本筋の物語としても走り出す五話が好みかな。楽しいだけの戦争なんてないんだよね。ナイティンゲールとトーテンコフのごく短いやりとりも、なかなかに心を揺さぶってくれますよ。投稿暦17年の実力なのか、新人とは思えない緻密さです。ページ数も少ないし、文字が小さいわけでもないけれど、何度も読み返したりしていたので結構長く充実した時間を過ごせました。
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