ぶたぶたさんからも様々な話が飛び出してきますヒールxコミカル


矢崎存美ぶたぶたの食卓 (光文社文庫)』光文社,2005   著者検索類似検索


ぬいぐるみなのに動く山崎ぶたぶたさんが活躍するシリーズ六作目。前作もすばらしかったですが、今回もよかったです。タイトル通り、シリーズ中でときどき出てきた「食」が今巻のテーマです。四篇が収録されています。
十三年目の再会」勢いで入った中華料理店で亡き祖母と同じ味のチャーハンと出くわす由香のお話。祖母の味がする理由を探ろうとすると、やっぱりぶたぶたさんに突き当たるわけです。一週間とはいえ二人の交流を思うと心が温かくなってきますよ。「嘘の効用」父親の農業を継ぐのが嫌で東京に飛び出したものの、突発的に仕事を辞めてしまった琢己のお話。これまた突発的に料理教室に通うことになるのですが、講師はやっぱりぶたぶたさんで。琢己の料理教室初日は、どう考えても宴会にしか見えません。ぶたぶたさんのヘビーな話題が飛び出す辺りから、俄然面白さが増してきたように思う。
ここにいてくれる人」夫に内緒で精神科に通うことにした美澄のお話。そんな状態でぶたぶたさんに遭遇したら、やっぱり幻覚を見てしまってると不安になるわけです。「ぶたぶたさんは、何でも癒してくれる魔法の存在ではないんだよ」という言葉がすごく印象に残っています。「最後の夏休み」母親と離れて過ごし、一人で親戚の家をたらいまわしにされた子供時代を持つ一司のお話。他人と距離を置く子供だった一司ですが、ある少女とは仲が良く、彼女と食べた思い出のかき氷を作るのはやっぱりぶたぶたさんなのであります。またまたヘビーな話題が飛び出しますが、これにはちょいと驚いた。
前作と今作、つまり光文社文庫の作品は、一作目から四作目と違って家族の描写などぶたぶたさんの背景が、より詳しく書かれ始めているような気がします。そこにいるだけで癒しの存在なぶたぶたさんではなく、人間と同じように苦悩する存在としてのぶたぶたさんにシフトしている感じ。考えてみれば人間と同じような悩みだけじゃなく、ぬいぐるみな外見のためにぶち当たる悩みも多数あるのか。コミカルに描かれているからなかなか気づけなかったや。
解説は全日本ぶたぶた普及委員会会長の西澤保彦さん。副題の「決して抜け出せない日常の狭間で見え隠れする桜色に関する一考察」がツボでした。ここで述べられているように、いつも変わらずそこにいてくれる存在へは愛着わきますよね。ぬいぐるみが知らぬ間に歩いてどこか行ってたら怖いですし^^ ぶたぶたさんなら大歓迎ではありますが〜。