ローレンスブロック, オットーペンズラー『アメリカミステリ傑作選〈2003〉 (アメリカ文芸年間傑作選)』DHC,2003


アメリカミステリ傑作選の五作目。全二十作が五百項に収められています。ミステリと銘打ってあるので、てっきり推理物がメインかと思っていましたが案外少なかったです。心理描写の描き方の妙を重視している面もあります。なので、翻訳物ということもありますしちょっと難しいかも。以下、気に入ったものを読んだ順に。

「プリズン・フード」刑務所で死刑囚に最後の夕食を作ることになった女の葛藤の話。いわゆる探偵小説ではありませんが刑務所内の話と息子との付き合いかたを絡めていい感じで、家族物としてもなかなか。
「内装職人」少女が消えてしまう話。トリックはなんとなく見当つくのですが、でも確信には至れませんでした。どこに行き着くのか分からさせない見当のぶれさせかたがうまい。
「ケルズの書」美術品が盗まれる話。この中で始めて正統派の推理小説でした。オーソドックスだけど悪くないです。こういう後味は好み。
「エリーの最後の一日」老刑事が最後の一日で事件解決のために立ち上がる話。事件そのものよりもエリーの考えがわりと好き。
「容疑者」パートナーの刑事の娘が殺される事件が発生するところから始まります。なによりも文のリズムがいいです。クライマックスのやり取りはニヤリとします。
「家族」十年ぶりに弟を訪ねる男の話。そこで弟の家で弟の妻と出会うのですが、ついほほを緩めてしまいました。はっきりしたことは書かれておらず、ぼんやりとした主人公が魅力的です。
「残酷なスポーツ」死体を修復するエンバーマーの話。タイトルにもありメインのテーマである人間の残酷さより、少女のほのかな官能さがよかったです。
「目にあざのある少女」凶悪犯に連れ去られた少女の話。謎解き話ではありませんが、日常的ではない少女の語り口がいやらしいです。
「イージー・ストリート」二人の兄弟と銀行強盗の話。銀行強盗というとどうしても伊坂幸太郎さんが出てきてしまいます^^
「大きなひと噛み」誘拐事件を担当することになった私立探偵の話。最後の一文がなによりも秀逸。あれでぐっと引き締まってる感じがしました。
「ミッシング・イン・アクション」戦時中に行方不明になった子供の話。子供と大人、事件と日常。それぞれの対比がきつかった。大きく揺さぶられました。
「死の”プッシュ”」プロレスラーの話。この本の最後に、ちょっと異色な作品がきてるように感じました。どうなるんだろうと思わずにいられませんでした。

解説に書いてる言葉がこの本を端的に表していると思います。「いまや現代においては、事件の真相も顛末も大事なのではなく、人物達の焦りと絶望感こそ重要であることがわかってくる
と、感想を書いていて気づきましたがこの本の発行元のDHCって化粧品のところですよね? 本もやってるとは知りませんでした。