雨宮諒夏月の海に囁く呪文 (電撃文庫 (1178))メディアワークス,2005 Amazon


ある島を舞台に、「居場所を見つけられない者を、本来の居場所へ連れて行ってくれる」という不思議な呪文にかかわる四つのお話。雨宮さんの短編連作集です。
無難な人付き合いをする能面な僕と島に渡ってきたお姉さんの話「僕は能面」大人になるのが嫌な明るい女子大生の遠い記憶「ネバーランド」島で死ぬか、島を離れて娘夫妻と一緒に暮らすかを悩むおじいちゃんの話「ちっぽけな魚」島をでたがる犬の話「ゆうやけこやけ
電撃文庫なのにイラストがありません。でも、この本はイラストなくてよかった気もします。あまり電撃っぽくないですが。けっこう動きの激しいものが多いラノベの中で、清涼剤の役割を果たしてます。
最初の話はお姉さん(主人公・修一の姉、というわけではありません)がいい! 萌えってわけじゃないけど、かわいらしいです。自称「能面」の修一の視点で話が進んでいきますが、なんとなく文章から能面な雰囲気が伝わってきます。なにか足りないような気分です。
二つ目は、修一から呪文を教わった女子大生の京子が主人公ですが、初めと終わりのギャップが面白い。序盤は京子を含む女子大生三人組が動くので、「青春ダッシュ」とかお酒を飲んでの馬鹿騒ぎとか華やかでコミカルなイメージが強いのですが、島から戻ってきて京子が一人になったあたりから、寂しい雰囲気が付きまといます。序盤で京子がぽつぽつ漏らす大人になることへの不安が、中盤以降に効果を発揮します。京子の親友・茜が埋めたタイムカプセルに入っていた手紙を読むあたりは、変に飾らないのでストレートに心へ響きます。
Air
三つ目は、ラノベでは珍しくおじいちゃんが主人公です。二つ目の話の流れとしては、修一の友達である遥が主人公かと邪推してたのですが。善悪では判断できないところであり、難しい。私としては、おじいちゃんがもっと娘達に相談してもいいかなと思いました……。もうちょっとページをさいて描いて欲しいと思うほど魅力的でした。
最後は犬です。ここで犬をだしてくるとは(^^)今までの話のまとめみたいな感じもしました。その上、動物の視点で語られるのであのゲームを思い出す私はだめですか(ノ-o-)ノ
おまけのエピローグとあいまって綺麗にまとまっています。みんなに通じる傑作ではなくても、最近落ち込みがちだった私にとって出会えていい作品でした。
ちょっとしたネタバレになるかもしれませんが、一つ目の話での私が思ったこともメモしときます。お姉さん(赤城さん)が修一に手紙を送る場面があるのですが、そのまま読むとなんとなく違和感があるんですよね。その謎を解く鍵は赤城さんが才能ある脚本家であることだと私は思います。その謎に修一も気づかないはずがありません。さらには、修一が見抜くことを、赤木さんは知っていたでしょう。二人は理解しあった上で離れていった……。
呪文のことも気になりました。噂にされている呪文はもちろん一つなんですが、本当の呪文の言葉。それは修一にとって、赤木さんに呪文の言葉を聞く場面。京子にとっては、茜に感謝を伝える場面。おじいちゃんにとっては、娘夫婦に自分の決意を伝える場面(描かれてませんが)犬にとっては天尽岩に答える場面。本当の呪文とは決まったものではなく、三者三様だったような気がします。
まあ、ただの深読みかもしれませんが(-ε-)