三枝零一ウィザーズ・ブレイン〈3〉光使いの詩 (電撃文庫)メディアワークス,2002


ウィザーズ・ブレインのシリーズ三番目。今度の舞台はシティ・マサチューセッツ。今回登場する魔法士は、遠距離攻撃に優れた光使いに接近戦用の騎士、そして索敵に特化された千里眼。
出てくる騎士は主人公・ディーとシリーズ一作目『ウィザーズ・ブレイン (電撃文庫)』()で登場した黒衣の騎士・祐一です。
人工的に作られたと言うディーの存在をシリーズの色に通してみると、かなりもろい存在です。さらにディーは、戦闘能力そのものは強いのに人を傷つけられないという兵器としては最大の致命的な性格つき。
狂乱家族日記
そんな主人公を周りはフォローします。擬似家族物として、読むこともできるかもしれません。そりゃ、『狂乱家族日記壱さつめ (ファミ通文庫)』みたいにそのものずばりではありませんがね。一つの家族に焦点を当てているのではなく、光使いの親子と祐一のパートと、ディーと同じく人工的に作られた存在の千里眼・クレアとのパートの二つあります。
前者は、家族のいないディーにその温かさを教えてくれます。ディーは、母を思う娘と娘の幸せを願うばかりにつらく当たってしまう母親の姿を見て、そのきずなの強さを目のあたりにし、祐一からは悩みに対して適切なアドバイス・体験を受け自分なりの解答を出します。その祐一の姿はまるで父親のようです。その雰囲気がすごく素敵です。
後者のクレアは、最初姉のような存在として登場するのですが、話の進行上出番は少なくなります。ちょっと存在感が薄くなってしまったまま、クライマックスで再び登場するのですが、やっぱり希薄なんですよね。ディーとクレア、本人達は強い絆を持っているようですが、いまいちこちら側には伝わってこなかったのです。その辺が残念だなと思ってたのです。終章でひっくり返されるまでは。
いや、どんでん返しがあるわけでもないです。それを伏線と読むのは私の勘ぐり過ぎかもしれません。……男の子だからそんなもんかなと思ってたのですが、そういうことではなかったのですね(謎)
なんにせよ一番の魅力はやっぱり戦闘描写かな。物理学を専攻していただけあって、興味を引かれる言葉がたくさん出てきます。『「アインシュタイン方程式」を基礎原理に設定』『リーマン曲率を視覚情報化』などと言う言葉が嫌いじゃなければお勧めです。
シリーズ四巻目は上下構成で、二巻である『ウィザーズ・ブレイン〈2〉楽園の子供たち』()に出てきた主人公達も再登場らしいので期待大です。