本の読み方 スロー・リーディングの実践

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平野啓一郎本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP新書)PHP研究所,2006
平野啓一郎さんの作品感想


速読コンプレックスからの解放を目指す本です。ちなみに平野さんは芥川賞作家さん。高校のころにちょうど受賞の辺りで、手にとって見たけれど読むの諦めるような内容だった覚えも……。
スロー・リーディングとは、文字通り時間をかけてゆっくりと読むこと。反速読なのは、価値を見つけ出すためです。確かに、旅先で見るべきものを見逃すなんてもったいないことはしたくないです。


大量に読んだからといって、成功するわけでもなく。かつての知識人たちよりはるかに多くの書物を読むようになったけれども、知的な生活が送れているか謎です。
とはいえ、かつての世界には戻れず情報に囲まれた生活を送らざるを得ない。ただ、過剰な情報の中では網羅的より選択的な読書を嗜好したい。


最初の立ち居地は作家の視点で読むこと。作者の意図を酌み、仕掛けや工夫を見逃さない。「書き手はスロー・リーディングしてもらう前提で書いている」には思い当たる節も。自分の文章が無駄に気になった記憶あります。
偏った思考を反映した感想では、視野が狭まる可能性も。感想ではある意味それも重要ですが、思考を巡らしながら読む視点も欲しいところ。
読み方一つで同じ小説の読了感がまったく異なるのは、身をもって体験しています。「本当はエロい」の感想モードに入ると、ネタにできそうな単語や文章の組み立てに注意がいって、物語をしっかり味わえてないので。


プロットだけを追わないように。差異とは微妙で繊細なものである。ボキャブラリーの多さよりも助詞や助動詞に注目したい。好きな作家なら、特にその使い方を気にしたい。
自分の印象では、漫画をネームで読むのと同じような態度なのかな。ネギまを始めとした赤松健論を読んだときの衝撃や漫画夜話ハチクロを深く掘り下げられていたのは強く記憶に残っています。
また、文のリズムを感じ取るためには、音読より黙読推奨。音読はスラスラ読むことに気をとられてしまうので。まあ、作家自身が音読しながら書いているような文章ならありなのかも?


論理を把握できていない誤読は論外ですが、作者の意図以上に興味深い内容を掘り当てる豊かな誤読は推奨。「自分の感想」に当たる部分かな。自由な誤読をしつつ、作者の意図を考える姿勢がこの読み方の極意。
気になる部分、立ち止まった部分は納得できるまで放り捨てないように。どうしてと疑問を投げかけるべき。わけ分からん奇妙な設定を素通りせず記憶にとどめておくことで、経験を通して後で分かることもある。


本の相関関係。何が同じで何が違うのか考える。別の作家でも同じ作家の時期違いでも、思想の変遷や時代の流れを体感でき、立体的で厚みのある作家像を描くことができます。
印をつけるのは有意義。形にこだわらず、つけること自体が重要。私はテストでも使用しましたが、接続詞に印も効果的。構成を理解しやすいのです。また、自分自身の成長を実感できるので再読こそ価値あり。


登場人物による疑問文が登場したら注意。読者の疑問と呼応する。たまたまということもあるが、考える手間を惜しまないように。そして、作品の主題を現代と引き比べて考えること。昔と比較して、初めて現代が見えてくる。
何気ない風景描写で間をとった後に、重要な発言があることも。読者に違和感を与え注意を促す手法もあり、不自然さは場面転換の印だったりも。
見慣れない漢字や語句の使用方法があったら、語源を含めて考察したいなー。やはりここでも素通り厳禁。雑学的な面白さか。
小説に正解はない。作者の意図は大事だが、こだわりすぎないよう。作者の意図と自分なりの解釈という2つのアプローチを試み、作品によって比重を変えるのがポイント。この辺りの配分は慣れだと思う。
数字を出すことで作品の盛り上げと一致させる漸増法。借金の額やピアスのゲージなどなど。あるいは対比表現、対句的表現などの小技も見逃せないが、体感することが大切。
比喩がキマっているのは、提出されたイメージが現実に重層的に対応しているとき。逆接の接続詞に注目。通説→否定→主張。典型的なパターンでもある。


さっそくこの読み方で一冊読み解いてみたい。明日からちょっとずつ進める予定。題材は「毛布おばけと金曜日の階段」を予定しています。印をつけたいので、中古であったら手に入れたい。