ホラーだけではないのですよホラーxミステリ


平山夢明独白するユニバーサル横メルカトル』光文社,2006


webの感想を読んで気になっていました。八篇の短編が収められており、表題作は2006年度の日本推理作家協会賞受賞作です。ホラーを基本にしてますが、怪奇現象ではなく歪んだ精神にスポットがあたっています。
C10H14N2(ニコチン)と少年」まじめな生徒であるたろうを主人公にした話。たろうは突然、ある少年によっていじめられるようになります。また、湖の近くに住むみすぼらしいおじいさんに興味を持つのですが、それによってなんとなくズレている街の印象が強まってきます。おじいさんの「狂い尽くされておる!」が端的に表しているかな。「Ωの聖餐」象のような巨体のオメガの世話をすることになった男の話。食事の世話の描写とか読むのが嫌になってきますね。今ではろくな仕事をしていない男ですが、元々は数学者を志しておりそれが物語に絡んでくるので、名前だけは聞いたことある法則なんかが出てきます。後味はなんともいえません。
無垢の祈り」クラスメイトからはいじめられ、養父には殴られ、母は宗教にはまっているという八方塞な状況にいる少女・ふみの話。世界に絶望を抱いても仕方ないと思ってしまうほどの境遇なので、その辺りを読み進めるのは辛い。彼女は連続殺人の犯行現場に赴き、印を残していきます。この話の登場人物たちを見ていると、人間ってどうしようもないなとか思ってしまうよ。「オペラントの肖像」徹底的に人間を管理するための手法として、条件付けというものが使われている世界の話。条件付けを始め、単語が使われ後に説明がされるという形式なので最初は不思議さが残り、徐々に引き込まれていきます。ホラーだと決め付けていたのでやられてしまいました。
卵男」猟奇的な殺人事件を起した卵男の話。彼を逮捕したカレンとの話合いのときも、独房に入れられて隣の囚人と話しているときも、落ち着いた博士のような雰囲気を崩さないところがいいな。その分、最後の寂しさといったらありませんよ。「すさまじき熱帯」親父とともにジャングルへ仕事をしに来た男の話。川に一度入れば肉を食われたりだとか、何を考えているのか分からない残虐で野蛮な民族だとか、描写されてるシーン自体はおぞましいんだけど、語り口が軽いのであまり気にならない。逆に、変な日本語に聞こえてしまう言語や親父のアホらしすぎる真意とかに目がいって笑ってしまう。
独白するユニバーサル横メルカトル」不思議な語感のタイトルですが、読んでみてすぐに納得。なんと言っても奇妙な視点が絶妙。御主人様に仕える身としての、心構えを語ってるところとか楽しいな。描かれているのは狂気なのに、坊ちゃんとちゃんとした関係になろうとする努力のほうに目がいってしまいます。「怪物のような顔の女と溶けた時計のような頭の男」誰でも小さいことはやったと思うんだけど、自分ルールって作ったことありませんか? この話の主人公の場合は、13という数字にこだわっています。まあ、それを徹底して生活しているので気味が悪いんですが。女を痛めつけるところは案の定グロイ。でも、痛さが伝わってくるはずなのに、癒された感じがするのは変なのかも。
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