セリヌンティウスの舟

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ミステリ8シリアス2
石持浅海セリヌンティウスの舟 (光文社文庫)』光文社,2008
石持浅海さんの作品感想




性別も年齢も職業もバラバラだけれども、漂流をきっかけに見えない絆ができた6人の物語。その中の一人の女性が自殺することから、物語は行き先の見えない波にのって漂い始めます。仕方のないこととは言え、喪失感みたいなのがそこかしこに漂っていて、妙に居心地が悪かったです。
納骨式の後で集まった5人が、彼女の思い出を語らい始めるのですが、彼女が飲んだ青酸カリの入っていた薬瓶の蓋が開いていたことから、彼女の思考をたどっていくことになります。


ぐるぐると思考地点が変わっていき、二転三転する仕掛けが心地よいです。こういう話の持って行きかただと、素人が試行錯誤しつつ推理する展開への自然さと意義があります。
また、気軽に行っているからか、基礎の基礎からはずさずにしっかりと色んな意見が出ております。論理的な思考というのをスムーズになぞることができ、謎解きの醍醐味ともいうべき面白さに触れることができました。


走れメロス』の展開や解釈を織り交ぜつつ、様々な角度から議論がされていきます。いろいろなものが論理的に動いているように感じられ、真相についても寂しさがあったのは否めません。推理小説の宿命なんでしょうか。
それを含めて、推理小説のエッセンスが凝縮されていました。場所も限定されているし一夜で終わる話でもあるので、とても読みやすくまとまっています。ミステリ初心者にもお勧めしやすい本になっていると思います。推理をしていく醍醐味と言うものが分かるのではないでしょうか。


この小説が好きな人にお勧めする3
1 本格ミステリ07 2007年本格短編ベスト・セレクション  Amazon2 放課後  Amazon3 パズラー 謎と論理のエンタテイメント  Amazon
1、『本格ミステリ07 2007年本格短編ベスト・セレクション』石持さんの地雷除去が関わる話も収録されたミステリセレクション。→感想
2、東野圭吾さんの小説『放課後』トリックを一つ一つ崩していく物語。→感想
3、西澤保彦さんの小説『パズラー 謎と論理のエンタテイメント』謎解きが6作収録されている短編集。→感想