家守綺譚

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癒し8コミカル2
梨木香歩家守綺譚 (新潮文庫)』新潮社,2006
梨木香歩さんの作品感想


文筆業を営む綿貫が、友人の高遠が以前住んでいた家にひょんなことから住むことになる物語。その家で起こる日々の出来事が記されています。deltazuluさんの感想を読んで手にとりました。


サルスベリに想いを寄せられたり、死んだはずの高遠がひょっこり戻ってきたり……。綿貫の語り口がひょうひょうとしていて捉えどころがないので、不思議な出来事があってもさらりと流されていきます。
自然な目線で描かれているので、ふとした拍子に綿貫が切り取った風景、心情が素敵なんですよね。毎日ごちゃごちゃ生きてる私からしてみたら特に。自分が感じたであろうことを全部明かしてしまうのではなく、ほのめかす程度なのもまた憎らしい。「ああ、あの鈴の音はここに凝ったのだと得心した」は印象的です。


と言っても、仙人みたいな生活をしているわけでもないのが味噌ではないでしょうか。執着するものには執着するし、俗物を嫌いつつも縁を切っているわけではないので共感もあります。立ち位置が魅力的で味わい深くて、そしておかしいのです。
綿貫だけでなく、高遠にしても隣のおかみさんにしても山寺の和尚にしても、河童の存在を当たり前として認識しているなど、なんか妙に落ち着く世界がここにはあります。虫屋がいたり、悪意がまったくないわけじゃないけれども。「いい場所とはつまり、人が埋められる気になる場所なのだよ」この言葉が、綿貫が見ているであろう風景と併せて大変しっくりきました。


そうそう、ゴローが何気に要所要所で登場していますし、かなり出世します。そして、人知れず苦労していそうで、でもそれをほとんど見せなさそうな姿が思い浮かんでしまうのです。まあ、犬の表情なんて私には読み取れないでしょうがね。猫派だから。


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