読んでる人に優しくない設定

電撃short3のごとく縛りをつけたかったので、その週に読んだ本から縛り単語を選択することにしました。
今回は「読書」「義理チョコ」「七不思議」「嘘つき」「悪魔」「恋」の単語を入れることに。今週は電撃の発売日で読んだ量が多かったからな……。



『嘘』


図書室に残っている友也くんを確認したわたしは、彼に向かいまで歩いていき勢いに任せて手に持っていたものを差し出す。読書中だった友也くんはわたしの気配に気づいて、ソレに目を向ける。
「えっと、何これ?」
「何って……義理チョコに決まってるじゃない。バレンタインデーだし。どうせお母さん以外からはもらえないでしょ。去年もあげたし……」
わたしが気まずさから言わなくてもいい言い訳をしていると、本棚に隠れて見えなかった場所から人が出てくる。
うわっ、最悪。クラスでも一番ガキっぽい享だった。なんで人がいないことを確認しとかなかったんだろう。もちろん享は、わたしが手にしているものを見逃すはずがなかった。
「うわー、チョコあげてる。ひゅ〜ひゅ〜」
からかい口調なのを考慮してもあまりにバカっぽいセリフ。でもわたしの動きを止めてしまうには十分だった。
チラッと友也くんを見ると……彼も享のほうを見たまま固まっていた。
義理チョコなんだから、こんなやつ気にせず持っていけばいいのに。言い返すかなにかして欲しいのに。
わたしの頭の中で何かがぷつんと切れた。
「友也くん受け取らないんだ。受け取ってくれないと、呪われちゃうんだからねっ」
自分自身でも意味不明だった。二人ともぽかーんとしている。ただ、無言でいるのが怖くて、わたしは適当に口を開ける。
「そういう学校の七不思議があるんだから! 図書室での義理チョコを受け取らないと、恐ろしい目にあうんだからね、友也」
突然の話題に追いつけていなかった享も、体勢を立て直してきた。友也を無視してわたしと向かい合う。。
「おまえ、小4にもなって七不思議なんて信じてるのかよ」
「本当にあるんだもん。悪魔がやってきて、それで義理チョコを受け取らなかった男の子をさらっていっちゃうんだもん。こ、怖いんだから」
言い切った。ああ、わけがわからない。落ち着け落ち着けと自分に言い聞かせるものの、まったく効果がないよ。
「悪魔って、なんだよそれ。そんな七不思議聞いたこともないぞ」
もう無茶苦茶だ。昨日チョコレートを作っているときはすごいわくわくしていたのに、こんなはずじゃなかったのに。
「早く悪魔を登場させてみろよ。この嘘つき」
くだらない言葉の一つ一つが胸に突き刺さって、ぎゅっと目をつぶる。どうしよう。いつまで耐えればいいんだろう。
でも、次に聞こえてきたのは享の声ではなく、これまでずっと黙っていた友也くんの声だった。
「いつまで経っても悪魔は出てこないから。このチョコレートもう受け取っちゃったし」
いつの間にかわたしのチョコを手に持った友也くんが、間に入ってきていた。
わたしには友也くんの背中しか見えなくて表情は分からないけれども、享は明らかにびびっていた。「ああ」とか「うう」とか言いながら、結局部屋から出て行っちゃったし。
享が図書室を出て行った途端に、全身から緊張感が消えていく友也くんの後ろ姿を見ていて、素直に認めちゃえばいいんだって気づいた。これがわたしの初恋なんだって。
「ごめん、友也。やっぱりわたし嘘つきだった」
振り返りつつ首をかしげる友也くんに向かって、宣言した。
「これ……本当は義理チョコじゃないよ」