声で魅せてよベイビー

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恋愛⑦コミカル③
木本雅彦『声で魅せてよベイビー (ファミ通文庫)エンターブレイン,2007


webの感想を読んで手に取りました。第8回えんため大賞佳作受賞作。受験生の広野と一つ年上の沙奈歌の物語。カラーイラストの内容が最初は分からなかったけれど、最後まで読むとニヤリとしました。
ハッカーの少年・広野が主人公だとは聞いていましたが、始まり方には脱力。そうか、ヒロインの沙奈歌は腐女子で声優志望なのか。年上なのか年下なのか分からなくなるような、気ままな沙奈歌が魅力的ですな。
突拍子もない出現方法のわりには、黒玉ちゃんもキュートだ。ハッカーの師匠ともいえるおっちゃんもいい味だしてる。テンポよく話が進んでいくのも好感触。


ハッカー腐女子の相性がいいのか、二人はエチュードすることになります。最初は孤高に生きようとか考えてる広野が鼻についたんだけど、結局は恋に悩んでる男なんだなって分かった瞬間に共感できるようになった。
声優になりたいという夢を応援する広野の姿がいいですよね。実力がないと言われつつも、一生懸命努力する沙奈歌もいい感じ。
広野が悩みながらも出した、「二人で手をつないでぐるぐる回っている時、中心はどっちでもないんだ。二人の間に中心があるんだ。」がストレートすぎて眩しい。この話題に対する黒玉の反応もナイスです。でも、恥ずかしいセリフ禁止


そんなわけで純情すぎる広野は、相手のことを考えて行動してるから根本的に間違ってはいません。でも、沙奈歌とすれ違いがありそうだったら、ちゃんと議論しなくちゃと何度も思った。
自分の中だけで色々考えてても、それを伝えなきゃダメだよね。沙奈歌のように声で魅せることはできなくても、ちゃんと声で気持ちを見せてあげなきゃ。基本ではあるけれど、私もできてなかったりする。がびーん。


最後はハッカー、声優それぞれ見せ場があって面白かった。クライマックスのトオミとナナコの会話もいい展開してくれます。
広野の恋の悩みは、プログラム作成と一緒でエラーとの戦いなんだと思う。万能な答えなんてなくて、環境によってずいぶんと左右されるものだから、ちょっとずつ確かめていくことが大事でしょう。
完璧なプログラムを作っているはずが、実はエラーばかりで結局は使い物にならなくなってしまうことほど寂しいことはない。というか、二人で一緒にプログラムを書いてるはずが、独りよがりだったなんて気づいた日には目も当てられないし。
エラーで所々つまづいたとしても、「だがやるぜ」の気概を持ってる広野なら大丈夫かな。沙奈歌とは幸せでいて欲しいな。もっとも、天邪鬼な読み手としてはすれ違ってるところが一番楽しいんだけどさ〜。


木本雅彦さんの作品感想


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