鈴木鈴サンダーガール! (電撃文庫)』2005,メディアワークス (画像・*はアマゾンへ)


鈴木さんと片瀬さんコンビの新シリーズ。都会から田舎へと引越し、以前の学校の友達とも離れ離れになってしまい消沈気味な女の子が突然、雷を操ると言う特殊な能力を扱えるようになってしまってさあ大変と言うお話。全編通してのノリは、『吸血鬼のおしごと―The Style of Vampires (電撃文庫)』()と同じコメディが程よく混ざったアクションといった感じ。吸血鬼のおしごとシリーズは二巻目以降コメディ部分が減り重苦しい雰囲気になってしまいましたが、この『サンダーガール』シリーズは明るくいくらしいです。あとがきで鈴木さんが、二巻目はさらにコメディタッチにすると公言していたので。
一巻での主テーマは上でも挙げたように、無理やり与えられた力を使わなければならない義務が生じるか、です。具体的には、雷を繰る能力が自分の意思と無関係に与えられた場合、(自分を含む)人を守るために身の危険をさらしてまで敵と戦わなければいけないのか、という問題です。(タイトルから底抜けに明るいコメディだと想像していた私は、ここでまず裏切られました)
もちろん主人公の女の子・メイは普通の子なので、今まで通りの生活を望み能力は封印してしまおうと考えます。引っ越してきてようやくできた友達でさえ、特殊能力を持ったことを知られてしまったら一歩退かれることは安易に想像でき、それは主人公にとっての恐怖だからです。そう考えつつ心の片隅では、自分は戦う力を持ったのだから他人にまかせて平々凡々と暮らしていてはいけないのではないだろうか、と葛藤します。
最後のほうには水と雷と化け物が入り乱れるアクションパートもあり楽しいのですが、一番食指を動かされたのは、やはりこの心の揺れ動き部分です。この辺のやりとりのバランスがうまいので面白いです。もともと描写力は電撃文庫の中でも高い人なので心配はありませんでしたが。春期限定いちごタルト事件
この手の葛藤で一番私の記憶に新しいのは、米澤穂信さんの『春期限定いちごタルト事件 (創元推理文庫)』でしょうか。 こちらも二人の登場人物・小鳩くんと小佐内さんが、本当は明晰な頭脳(これが原因で憎まれ口を叩かれた模様)は隠しておいて小市民として暮らしたいのに事件に巻き込まれて仕方なく推理すると言うお話。出る杭は打たれると言うか何と言うか、飛びぬけた才能・能力は一般の人から見たら畏怖の存在にはなるにせよ、親しみを抱かせるものではないと言うことでしょうか。最悪、でしゃばりだとか不気味だとか、嫌悪の感情を抱かせることに。こと日本においては顕著でしょう。
それでも、特別な能力が人々の生活に役立つことには変わりなく、自分を犠牲にしてまで貢献するべきか否か。こういう問題に正解はないでしょうから、自分なりの答えを出す過程を、この『サンダーガール』では丁寧に追っています。
その上、最初のカラーイラストではパンチラ。さらに途中ではシャワーシーンとサービスカットも満載なので(笑)お勧めですよー。