荒野

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恋愛5コミカル3癒し2
桜庭一樹荒野文芸春秋,2008
桜庭一樹さんの作品感想




おっちょこちょいな女の子・荒野の恋を巡る物語。既読分の感想はこちら
荒野は「お駄賃!」と叫んだり、捕まえられて「ぎゃー!」と吠えたり、かと思えば「このうち全体が、ずっと、吊橋みたいに揺れているよ」と囁いたりと妙なアンバランスさが魅力的です。なんかあまじょっぱい。
だって、なにやってたって、女は女なんだぞ」「それはきっと、性欲をともなう強い好意のことだと思う」のように、荒野の父親が恋愛小説家というのと絡んでいるのか、セリフの一つ一つが決まっています。


第二部での喫茶店に一人で入り大人になった気分、私にも覚えがあるので懐かしいです。……私の場合、一人喫茶は20過ぎてからなのですが。
年上の男の子に口笛を吹かれて、変化してしまった自分に感づいてしまう場面も印象的です。「時間よ止まれ」と変化に戸惑う少女たちが、閃光のように美しく浮かび上がってきます。
第三部でも、「頼もしい、やつじゃ……」とかこういう言葉の選び方が私の心をくすぐります。あと、「悪霊退散」などなど。「耳の後ろ辺りに響くすごい甘さ」という表現も好きです。また、「荒野がつくるの」って胸を張っている姿がものすごく愛らしいと思ってしまいましたよ。


読んでいる最中に突然雨が降ってきて、ページにも2、3滴ついてしまいました。それに気づいた瞬間、ものすごい雨の匂いを感じました。その箇所に栞を挟んでおいたのですが、感想を書くために開いたときには、もうそんな跡どこにも残っていませんでした。恋ってそういうものかも知れませんね。