テンペスト 上

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燃える6シリアス2コミカル2
池上永一テンペスト 上 若夏の巻角川グループパブリッシング,2008
池上永一さんの作品感想


琉球を舞台に、龍の交尾があった嵐の日に生まれた少女・真鶴あるいは寧温の物語。deltazuluさんの感想を読んで手にとりました。
環境は恵まれていないものの、溢れんばかりの才能を秘めており、性別を偽って科試を受験しよとする寧温の姿勢が頼もしいです。外国語をベッテルハイムに学んでいるさいの発言「わかりました。全部教えてください」には笑ってしまいましたよ。


寧温はもちろん、周りのキャラクターも個性的な人が多いです。麻先生はもちろん、第6感に長け生きながらに神と呼ばれる聞得大君なども、好意はもてませんがついつい飲み込まれてしまいます。寧温の「多嘉良のおじさん、やっぱり女は怖いです……」は納得の発言。
酒飲みに女好きとダメダメだけどどこか憎めない・多嘉良や儀間親雲上のコンビもなかなか。「首席。破天塾、多嘉良善蔵!」には驚きました。また、この二人が問題を大きくしてくやがりますから侮れません。
本当に破天荒な人間ばかりなどで、彼らを見て困惑する門番たちに思わず共感してしまうほどでした。


科試に挑んでいる最中の寧温など、ライバルの朝薫と答えのない超難問を前に切磋琢磨するシーンは心踊るな〜。また、二人が同時に恋心に気づくところにはくすくすとほほがにやけました。
キャラクターが魅力的なのですが、彼らがぶつかる問題も負けず劣らず絶妙です。最初は役所内の小さな小競り合いから始まり、徐々に徐々に国対国など大きく、そして互いの主張がぶつかり合う、激しい問題の壁にぶち当たることになります。一体どんな風に難問をひっくり返してくれるだろうとわくわくしますよ。
とは言え、劇的な兄との再会があったり、寧温の秘密が何度かバレそうになったり、死よりも苦しい生を命じられたり。楽しさもあるんだけれど、比例的に不安も増大しましたね〜。
だから、識名園での出会いの場面にすごく心が落ち着きました。バックアップしてくれる人の存在を確認でき、安らいだ気持ちになれましたよ。


なのに、徐丁垓という男が絡み付いてきて嫌になります。それまでは、どんなに負けが確定している勝負でも、果敢に挑戦して逆転させていたため、いつか相手をやりこめてしまうはずだと私は思い込んでいたものの……。誤解されるってのが本当に辛いことなんだと痛感させられます。
もう楽に生きればいいじゃんと、問題にぶつかる度に思っていました。人生を転覆させてしまうほどの波を、なんとかやり過ごしたと思う度に、また波を求めて突っ込んでいく人生ですから。私には真似できません。
最後はかなり強烈な引きなので、これから一体どうなるんだろう。上巻だけでもイベント盛りだくさんのジェットコースターのような生活だったので、次もそんな感じで続くのかな。まあ、ジェットコースターっていうより、龍の背中に乗ってるというほうがしっくりくるかも知れませんが。いやはや、期待以上の面白さでした。


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