雨にもまけず粗茶一服

雨にもまけず粗茶一服 上  Amazon
癒し6コミカル4
松村栄子雨にもまけず粗茶一服〈上〉 (ピュアフル文庫)』ジャイブ,2008
松村栄子さんの作品感想


坂東巴流という弱小流派ではあるものの、お茶の家元の息子・遊馬がバカなことをやり、京都へ逃げ出すことから始まる物語。deltazuluさんの感想を読んで手にとりました。書影は文庫本ですが、読んだのは単行本。


家を出てバンドに逃避しようとするものの、真剣になりきれず見捨てられるのは無理ないなと。遊馬は無茶しすぎですよ。自分を救ってみる修行を思い立ったら実行してみるとか、行動力あるのはいいけど向かう場所が違うような。肝心の修行場面でも下半身に注目していたりと、精進という言葉とはあまりにも遠いのです。
優しいみんなに甘えて、迷惑ばかりかけていたらそりゃあかんがな。まあ、お茶から逃げたいと思う遊馬なのに、皮肉にもお茶は寄ってくるばかりというのは、さすがにかわいそうだと思わないでもないですが。


登場人物がみんな愛嬌ありますね。「おじゃる」の語尾や公家装束で現れる幸麿のインパクトはすごかった。幸麿さんの本職にもびっくりましたよ。
また、遊馬の弟である小学生・行馬が大人びていていい感じ。序盤、弟に家出の作法を教えてもらうなんて、お兄ちゃん形無しです。もっとも、行馬の悟りに対抗するのは至難のわざだと思いますが。
行馬は一旦退場するものの、途中から復活して再びその利発さを発揮してくれます。てか、終盤にかけては怒涛の勢いで芯の強さの片鱗を見せてくれます。ちょっと一服して言ったらどうだいと言いたくなるような、すさまじいまでの決断力。そして、「照れるじゃないか」と言ってのける行馬には痺れました。お茶に一服盛られたみたいに。


みんなが意見を言い合いながら茶会で必要な道具を決めていく場面や亡くなったおじいさんを偲びつつのお茶会の風景はよかったです。道具そのものはよく想像できませんでしたが、しゃべりあっている人たちを想像したらちょっとときめきました。あと、好きなお茶碗をそれぞれが述べるところも印象的だったな。弥一の教育が垣間見えて素敵でしたよ。
ちょっと嫌な汗が流れた場面は、「まあ、えろう京都を気に入ってもろうてねぇ」という居候先のおばさんの言葉です。基本まったりなので、これはお茶をかぶせられた気分でしたね〜。いや、水でした。


一つだけなくなった貴重な茶入れの在り処や盗まれた茶杓など、時々お茶の道具などに関連した謎が出てくるのも興味を引き立たせてくれましたなー。いやでも、茶杓の謎はひど過ぎる。このオチは読めなかったよ。思わずお茶でも点てたくなる驚き。
お茶って何ですか。そんなにすごいもんですか」の問いにも目を覚まされました。こんな質問が飛ぶとは思っていませんでした。
クライマックスは、まさかまさかの組み合わせがいろいろ出来ていましたね。そしてなにより、遊馬が以前会って嫌な奴だと思っていた少年の話は不意打ちだったね、まったく。
お茶と京都を巡る心温まる話でした。ぜひぜひこの物語におもてなしされちゃって下さいな。そして、どうやら続編もあるらしいです。一服しながら待つとしましょう。


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