妙なる技の乙女たち

妙なる技の乙女たち  Amazon
SF4癒し4燃える2 <ピックアップ7>
小川一水妙なる技の乙女たちポプラ社,2008
小川一水さんの作品感想


カーボンナノチューブで紡いだ糸を使った静止衛星上からの軌道エレベーターが完成し、世界で最初に建設が始まったシンガポール沖、リンガ諸島が舞台。deltazuluさんの感想を読んで手にとりました。七人の働く女性たちの物語が収録されています。
天上のデザイナー」携帯食器をデザインしつつも現状に不満を持っており、宇宙服のデザインコンペに参加する歩。「港のタクシー艇長」テンダーと呼ばれるボートを漕ぐスキッパー・水央。「楽園の島、売ります」法の隙間をついて高級邸宅を建設し業績を伸ばしている企業の経営者・香奈江。
セハット・デイケア保育日誌」色んな国籍の子供たちを面倒見つつものんびりしている保育士・麻子。「Life me to the Moon」宇宙へと人を運ぶエレベーターのケージ内で働くアテンダント・犬井。「あなたに捧げる、この腕を」機械的倍力装置を使用して彫刻を行うアーマート・里径。「the Lifestyles Of Human-beings At Space」滞在することができるようになったとはいえ、決して住み心地がよいとはいえない環境を何とかしようとする美旗。


水央の話では、船で人を運ぶ女性ということで漫画のARIA(→シリーズ感想)を思い出してました。逆境にめげず明るく居ようとする水央の性格が、とってもとってもよかったな〜。
またレオンという謎の少年と出会う麻子も、わりと危険な橋を渡っているというのに、レオンに親身になって接していてなんか励まされます。オチまで含めてぽかぽかした陽気に誘われている様な話でしたよ。


そしてARIAと同様に世界観も素敵で、香奈江の話で登場した”夜の者の庭”の描写などは、想像しきれない部分もあったんだけどそこがまた幻想的でよかったです。終盤は緊迫した展開が続くのですが、そんな中でも切れそうで切れない友情の存在も興味深かった。
友情といえば、歩と里径もつながりがあってにやっとしました。でも正直、私には里径の相手は大変そうだー。里径に関する話で、機械の手を借りた作品が芸術と呼べるのかどうかみたいな問題が触れられていたけれど、この辺は考え出すと面白そう。機械を使うことがどう影響を与えているのか、機械が思考して作ったらどうなのか等々……。
そうそう、どんな風にして運ばれていくのかが描かれている、犬井視点のエレベーター内の話も面白かったです。


どの作品もよかったのだけれど、特にお気に入りは最初と最後かな。歩の話では、誰もがイメージするであろうあのぶくぶくした宇宙服の既成概念をぶっ飛ばそうとするので、燃えましたね〜。動き出したら妥協せずに歩んでいく姿には、思わず惚れちゃいますよ。
美旗の大胆に改革していく行動力にも驚きましたね。コストの方向性とかそんな発想はこれっぽちもありませんでしたから。頭をがつんとやられるかっこよさですね。
美旗のウィークポイントを指摘したギルバートや船長、将軍など男もがんばってはいるものの、七人の主役や巨大企業の経営者・アリッサのパワフルな発想や肝の強さなどが印象的でした。後なんとなくですが、SFの魅力というものが分かった気がします。


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