田村はまだか

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コミカル癒し4
朝倉かすみ田村はまだか』光文社,2008
朝倉かすみさんの作品感想


小学校のクラス会、その三次会で田村を待つ五人の元クラスメイトと、客の話で気になったものは帳面に記しておくマスターのお話。田村を待つ間に過去の田村像が語られていたり、生徒に恋している保健室の先生の回想があったりします。
最初はちょっと頼りなさそうなイメージの田村だったんだけど、急にかっこよくなっちゃったから驚きましたよ。パンダが全速力で走る話での特別隠居した先輩もそうだったけれども、自然体でいいやつしてて尊敬したくなる。そういうつもりじゃないんだけどな〜とはぐらかしそうでそこもよい。


第四話 きみとぼくとかれのブルースターという女の子のブログを読んでしまう童貞の話も、なんてことないはなしなんだけど興味深かったです。「セクスィって、そんなもんでしょ?」が印象的。
バーの六人が本当に様々な姿を見せてくれました。年を経るごとに人格って増えていくような気がしましたよ。人格なんて大げさじゃなくても、場によって空気を変えるというか。どんな環境でも一本調子で過ごせる人って少ないと思うし。私だってブログの調子と実生活が同じとは思えないわけで。
イタリア語だと過去形は数種類あるそうです。経験が増えれば増えるだけ、その場その場での顔も増えるのだと思う。だから一つの顔で通している人に憧れるのかも。ま、顔を使い分けてるのも面白いので、結局はないものねだりなのかな〜。


四十代っていう設定、北海道の深夜とチャオというバーの環境、そして田村を待つメンバーの空気。すばらしかったです。また、終盤はびっくりしちゃうほどの勢いでした。……そして、自分自身も四十代になったら読了後の味わいも違うんだろうなという予感がします。
「田村はまだか」と叫びたくなる一冊でした。田村はまだか、田村はまだか……私がマスターだとしたら、帳面につける最初の言葉は「田村はまだか」でしょうね。私の田村はまだか。まずは田村を探しにいかなければ。


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