戦闘妖精・雪風〈改〉

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SF5シリアス3燃える2
神林長平戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)早川書房,2002
神林長平さんの作品感想


突然出来た通路によって地球と異世界がつながり、ジャムと呼ばれる異性体が攻撃してくる世界が舞台です。ジャムとの戦闘において、情報収集に力を注ぎ、味方を犠牲にしてでも帰ってくるよう命令されている特殊戦の隊員・零と彼の相棒であり強力な能力を秘めた戦闘機・雪風の物語。
タイトルの印象からてっきり戦闘機に人格があってしゃべったりするものだと勘違いしていました。
人とあまりかかわりを持とうとしない特殊戦の中でも、ブッカー少佐がいいですな。零とブッカー少佐がメインで、話によってそれぞれサブキャラが登場する各話完結型。


地球のジャーナリストを乗せる「不可知戦域」は、零が奇妙だと感じる風景が描かれておりゾクゾクしました。気の利いた会話で締めくくられていますし、地球とは違う不思議な空間であるということも再確認できて、この話はけっこうお気に入りです。
インディアン・サマー」は速い速度で話が進んでいくのですが、最後切ないな。入れ込んでいたわけじゃないんだけど、なぜだかうるっときました。目を開きすぎてて、しょぼしょぼしてくる感じに近いかなー。


フェアリィ・冬」は雪掻き部隊の天田少尉がなぜか勲章をもらえる話。この話から先は、読めば読むほどぶるっと体が震えてきますね。
雪掻きしてるわけじゃないので、寒いのが原因ではないわけで。雪を脇にどけるんだけれども、すぐには解けて消えてくれないから困りもの。雪がまた降り始めたら、再び積もり始めてしまうので不安が絶えません。
全系統異常なし」最新機のテストを行う話。なんつうか、死亡フラグが立ち過ぎで嫌になった。前の話を引きずっているので、もう穏やかな気分ではいられませんでした。


戦闘妖精」作中に度々出てくるジャーナリストのリン・ジャクスンの目を通して、ブッカー少佐の疑問を改めて開示され、「スーパーフェニックス」で物語を描ききります。
最初の戦闘機がしゃべったりするという想像はおおはずれでしたが、人間味の薄い主人公・零が戦闘を繰り返す中で徐々に殻を破り始める話だと予想しながら読んでいました。これも裏切られるとはね〜。


吹雪とは違う。雪風雪風」や5年の間に言葉まで変化してしまった話が印象深かったです。言われてみれば、切り捨てて合理的な言葉になった結果のしゃれた会話だったような。
解説などもあわせて、読んで良し、考えて良しの物語でした。言葉について、機械について、人間について、SFについて……考え出すと切りがなくなります。楽しいですよ。


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