ぐるぐるまわるすべり台

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癒し10
中村航ぐるぐるまわるすべり台 (文春文庫)文芸春秋,2006


音楽、というかバンドにまつわる中編が二編収録されています。野間文芸新人賞・受賞作品です。
キャンパスという言葉の語感の良さは異常だと思う。


ぐるぐるまわるすべり台」退学届けを出した「僕」が、バイトで塾の先生をやりつつバンドを結成する話。
私にとってバンドというと、燃え上がる熱い感情というステレオタイプの印象しか出てこないのですが、主人公の「僕」からは落ち着いていて淡々とした印象を受けます。そんな彼の視点で、受け持ちの生徒であるちょっとばかし個性的なヨシモクくんだとか、数学の教授の話などを絡めつつ話は進んでいきます。
とくに大きな出来事もなく、やはり淡々と語られていくのですが、見えてくる景色が少しずつ変化しているような気はしました。
ぐるぐるまわるすべり台だから、一周すれば同じ景色を見ているはず。けれども、徐々に下がっているわけだから見え方が変わってくる、みたいな感じでしょうか。なんにせよ、上記の最初の一文は素敵だと思います。


月に吠える派遣社員として働いている哲郎が、工場の組み立てラインの改善などを考えつつ、ドラマーの千葉と組んでバンドやろうかなと考え始める話。真面目な中に突然出てきた「太鼓の意志なのか。」の一文には笑いましたよ。


どちらの話も飄々とした文体が魅力的でした。少なくとも私にとってはわりと新鮮かも。本書はデビュー作から始まる三部作の最後らしいので、他の二冊にも手を出してみたいと思います。よかったですと淡々と締めくくってみますか。


中村航さんの作品感想


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