世界平和は一家団欒のあとに
橋本和也『世界平和は一家団欒のあとに (電撃文庫)』メディアワークス,2007
第13回電撃小説大賞・金賞受賞作。全員何かしらの特殊能力を持っている家族のお話。長女が魔法使いで次女は宇宙規模で戦っていて四女は回復魔法が使えて次男は怪力でと、設定はどこまでも突き抜けてます。
家族は学校生活とかを普通に送りつつも、世界の危機を何度も救っています。そんな家族の長男で、生命を冒涜した能力を持つ軋人が主人公。軋人は、保健室で偶然会った後輩の柚島香奈子を巻き込んだ世界の危機と直面していきます……。
世界の危機云々を抜きに、家族の面々がすばらしい性格の持ち主です。ノリノリのお姉ちゃんで暴君の次女・七美とかね。十九歳の女性のくせに「ぷー」とかいうな〜。でも似合ってるからいいのかな、うん。なかなか布団から出てこない主人公を起こしに部屋まで行くヒロインは多数見てきましたが、窓から放り投げて起すのは始めてみたよ。
大食漢であり、焼肉を食べる際に「お肉はね、ご飯のおまけ。」と何行にも及ぶ自説をぶちまけ、さらには素敵なお部屋になってる四女・美智乃もいい感じの壊れ具合。真面目そうなのにワイルドな面もある次男・刻人も地味なくせに楽しい。
兄弟げんかも下手に特殊な能力を持っているから派手ですね。ケンカの前口上も、一瞬触発な危ない場面のわりには脱力系の会話なのがツボ。どこまでが本気なのか分からないですよ。あと、オカンは最強です。
香奈子は家族ではないので微妙に蚊帳の外におかれ、話への絡み具合こそ少ないもののいい味だしてます。軋人が伝説のセリフを繰り出したときの反応も抜群。
もちろん、軋人が魅力的でなければここまで面白くないわけで。「アイムノットボーイ」に関する七美との応酬や「柚島の心は硬い。そして俺の頭の下も硬いままだ。悲しい。」なんてこと考える軋人グッジョブです。
破天荒なキャラたちの会話を楽しみつつも、中盤以降は家庭内の暗部も出てきます。ちょっと重すぎじゃないかと思う部分もありますが、家族がわいわい明るいからいっかなって気分になってきますね。
楽しい会話が結構あったので色々挙げていきたい気分ではありますが、あんまりだらだら書いていると軋人から、「長すぎるんだよっ!」と突っ込まれた挙句に瞬殺されてしまいそうなので、最後に一言。家族の団欒が一番じゃ。
この小説が好きな人にお勧めする③
①西尾維新さんの小説『化物語』魅力的な会話がいっぱい詰まってます。→上巻感想
②日日日さんの小説『狂乱家族日記』奇天烈な家族揃ってます。→感想
③うえお久光さんの小説『ジャストボイルド・オ’クロック』すてきに家電と共生してます→感想