クワイエットルームにようこそ

癒し⑥ギャグ④
松尾スズキクワイエットルームにようこそ文芸春秋,2005


松尾さんは、俳優をやっていたり映画の監督をやっていたり漫画原作者だったり、色々やられています。芥川龍之介賞候補作品。
書き出しの勢いはすごいですね。マシンガントークで下品な言葉の弾丸を浴びて蜂の巣にされている感じであり、どのり濃厚ジュースの一リットルボトルを一気に飲んでる感じでもある。意味が分からないのです。濃度の濃い思考の垂れ流しに圧倒されちゃって、物語の中に入っていけません。トリップして理解することを放棄してしまいます。


この主人公が薬で逝っちゃってる描写なので、入り込めなくてもある意味それは正しかったわけですが。そんなわけで、強烈な先制パンチを受けつつも、精神病棟で生活するはめになった明日香の入院生活が始まります。
まずは自分のダメダメさに気づくのですが、冷静に判断を下せるようになったときの一文は、「テンテキヲサレテイルウエ、サンソヲオクリコマレテイル!」であり、万事この調子で進んで行きます。
閉鎖病棟での出来事が綴られているのですが、この明日香が真面目に生きてるのか生きてないのか分からなくなってきますね〜。そんな明日香に話をあわせる鉄ちゃんも性格を把握しづらい。夫婦同時胃洗浄とかバカなことも多々言いますし。
入院することになって、鉄ちゃんが差し入れで持ってきた内容も脱力してしまうよ。『グラップラー刃牙』をチョイスする辺りにはニヤニヤしちゃいました。


場所が場所だけに変な人が多いですな。明日香のまなざしがおかしいから、普通の人でも変に見えている可能性もあるけど。妙な規則だとか、狭い世界で作り上げられた上下関係だとかも面白い。
鉄ちゃんとの馴れ初めなど、明日香の過去が語られる「西野さん」の章では、くだらないなんて思っちゃいけないんだろうけど、思っちゃう。仏壇を巡って同居中の鉄ちゃんとケンカするとかアホだ。
アホアホ言いながら笑いつつも、私自身の人生を他人に自慢できるかどうか考えてしまったのは仕様ですか?


出だしはぶっ飛んでいたし、中盤も妙なユーモアに満ちていたんだけど、最後はきれいにまとめられている不思議。それこそ騙されたみたいに。でも、感想書きながら考えていると、この落とし所で納得できちゃうんですよ。
明日香のように強くなるためとはいえ失うことを選択できるんだろうかね、臆病な私でも。人間って脆い存在でありながらも、意外にたくましさも併せ持っているのかなとか考えた一冊でした。
同著者作品感想
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③映画『カッコーの巣の上で』精神病棟に送られた男の話。
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