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津原泰水ブラバン』バジリコ,2006


書評サイトで見かけ気になっていた作品。語り手である僕・他片は、高校時代ひょんな出来事からブラバンで弦バスをやることになります。また、現代では先輩の一声でブラバンの再結成を図る物語が展開されます。高校時代の話と現代の話が入り混じるし、総勢三十四名も出てくるしで最初戸惑いました。登場人物紹介を見るだけで混乱しそうになったし。でも、そんなのは杞憂でした。その辺りは読み始めるとすんなり頭の中に入っていきます。
読みやすい一つの原因としては、物語の枝葉を伸ばさず基本的にはブラスバンドに関わる出来事のみが淡々と語られる形式だからでしょうか。ブラバン在籍は三年間ですが、語られるのは実質二年間。その間には、合宿の定番イベントを期に他片が段々とメンバーと接していく場面や、その結果まくら投げならぬたまご投げが勃発する話があります。ギターの購入やガンボの調理、二年生時の文化祭でのイベントなんかの話もあります。ブラバンに関わることだけでも、本当に色んな話が詰まっている。
読み終わっても、一編の曇りもないような爽快感はないし、逆に胸が詰まるような話がたくさんありました。再結成の話でも、うまく立ち上がったと思ったら、壁にぶつかり、乗り越えたと思ったら、脱落者の危機……と淡々とした語り口のわりには落ち着かない、それも最後まで。……う〜ん、なんて言えばいいのかな。最後もどうせ落ち着かないから、ずっと読み続けていたいっていう気持ちが強いです。ちょっとずれてる気はしますが、他片の言葉を借りるなら「終わらんものなんかどこにもない。じゃけえせめて最後まで見届けようとする」みたいなところでしょうか。なんか違うような。そうそう、こんな風に方言が使われていますよ。
面白かったけれども、惜しかった点もある。それは、私が八十年代初頭の雰囲気をまったく知らないこと(八十の後半生まれだから)と、ブラスバンドに使われる楽器やらについてまったく知識がなかったこと。知識のほうは、他片も当初素人なので読んでいくうちに理解できてくるし、時代の雰囲気も伝わってきます。理解しずらいなんてことはまったくありません。でも、そんな些細なことでも気になるほど、いい作品だったわけなんですよ。
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