しゃべれどもしゃべれども Amazon
しゃべりのプロがしゃべらないとき、逆におもしろい?!ヒートxラブ <ピックアップ6>


佐藤多佳子しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)』新潮社,2000


謎解噺の感想集を作っているときに見た落語家の三つ葉が主人公の作品。といっても謎解噺のようなミステリ要素はありません。常に着物をきている噺家の三つ葉は、従兄弟の良から話かたのアドバイスをくれと頼まれます。最初はそれだけだったのに、なぜやら謎の無口な美人やいじめにあっている小学生、果ては野球解説者を巻き込んで会話の指導をする教室を開くことに。で、その手段として落語を教えることになるのですが、テキスト起こしや話の暗記など、落語を覚えよう覚えさせようと四苦八苦する姿が序盤の見所。
中盤は三つ葉自身に話のウエイトが移ってきます。この三つ葉、竜ニのように噺をするのが楽しくて仕方ない前座は終えており、円紫さんのように風格のただよう真打でもなく、いわば中堅どころの二つ目という立場。古典落語しかやらないことへの行く末に不安を感じており、「落語が正しくて、客が喜ぶか?」と自問するなど、成長の壁にぶち当たります。落語に対する焦りだけでなく、お茶の先生のお嬢さんである郁子さんへの想いなんかも合わさって、なかなかいじらしいです。
三つ葉自身が問題を抱え始めるし、落語教室の生徒たちもみな悩みを抱えているわでてんやわんや。三つ葉が余計なおせっかいをしてしまったと反省したり、生徒の一人が危険な状況に追い込まれたりもします。それぞれ努力はするものの、そう簡単にはいかないのですよ。しゃべれどもしゃべれども、本当の気持ちはうまく伝えられないものですね。
ブクマ感想集同著者類似バッチ
③ 今夜も落語で眠りたい Amazon② 空飛ぶ馬 Amazon① 笑酔亭梅寿謎解噺 Amazon
田中啓文さんの『笑酔亭梅寿謎解噺』入門したばかりの落語家探偵・竜ニが登場する作品です。→感想
北村薫さんのシリーズ。『空飛ぶ馬 (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)』真打の落語家探偵・円紫さんが登場する作品です。
中野翠さんの『今夜も落語で眠りたい』落語がお好きなかたにおすすめです。→感想