来楽零哀しみキメラ (電撃文庫)メディアワークス,2006 Amazon


第12回電撃小説大賞・金賞受賞作。内容は「異能の力を手に入れてしまった四人の若者の生き方」
タイトルのように哀しさが前面に出ています。詳しい心理描写ではなく、どちらかというとすっきりとした文章によって哀しさがにじみ出てくる感じ。なので、最初は突き放されているような印象を受けました。不思議な体験をしたわりには、淡々と日常が流れていくような。
それが、第二章でブレーキがかかり暗転します。そして第三章。四人の若者のうち純がメインで話は進んで行きますが、ここで一人一人にスポットが当たり始めます。
水籐とその妹・涼子の喫茶店での会話。妹を初めとする家族の存在が見えてきます。「怒ってるんじゃないんだよ。心配してるんだよ?」この一言が結構つらかったです。
早瀬と十文字のお好み焼き屋でのやり取り。純とその彼女・紗也の押し問答。誰もあからさまに人間ではなくなっていく苦しみを出しませんが、逆にそれが私には痛かった。
最後は四人が四人とも、みんなのために動き出します。誰も無駄な行動はしません。完成されており、また完璧です。
同じ電撃の受賞作品で『火目の巫女』(→感想)にも痛さや苦しみがありましたが、あっちは詳しく書き込むことで、こっちは想像の余地を残すことで描かれています。いろんな作品を読むことができるから電撃は好きなのですよ。


この小説が好きな人にお勧めする③
③ 月と貴女に花束を remains② となり町戦争① 吸血鬼のおしごと SP
①第8回電撃ゲーム小説大賞・選考委員奨励賞受賞作。鈴木鈴さんの『吸血鬼のおしごと―The Style of Vampires (電撃文庫)』巻を追うごとにシリアスに……。
②第17回小説すばる新人賞・受賞作。三崎亜記さんの『となり町戦争』銃弾などが飛び交わない戦争です。→感想
③第5回電撃ゲーム小説大賞・選考委員特別賞受賞作。志村一矢さんの『月と貴女に花束を (電撃文庫)』 これも最初はコメディ寄りかと思いましたが……。