東野圭吾白夜行 (集英社文庫)集英社,2002 Amazon


いや、最初は刑事物かと思ったんですがだまされました。こんな展開が待っているとは想像していませんでした。確かに評判がいいだけあります。
推理小説では探偵ではなく助手が視点の話がほとんどですが、この物語は一人の視点に絞られず、十人以上の人物と五百ページにも及ぶページを使って犯罪者の生涯というべきものを記録しています。
最初は石油ショックが起きたりした昭和を舞台に殺人事件が起きます。それから時代を徐々に追いながら、様々な謎が書き出されていきます。途中から犯人(黒幕)は特定されるので、すべてを把握してる自分としては「そいつに近づいちゃだめだ!」と何度心の中で叫んだことか。
推理物で真実が明かされたときに、明るい話が暗い話に逆転したりするのも結構心苦しいですが、だいたいに置いてそれはクライマックスなので苦いのも一瞬だけです。でも、この物語は犯人の「偶然」をよそおった罠にはまっていく人々の過程が、克明に描かれ続けるので読んでる最中ずっと心が苦しいです。五百ページもの間ずっとです。
それにしても、東野さんの道具箱はいろいろ入っていてすごいです。人が変わるので性格はもちろんですが、それ以上に様々な時代・社会・職業が使われており、知識の収集力はさすがの一言。


この小説が好みだった人へ、私がお勧めする三冊の本。
③ ブギーポップは笑わない② 少年たちの密室① 片想い
性同一性障害を扱った作品。東野さんの『片想い (文春文庫)』社会問題として大きく取り上げられる前に書かれた作品だそうです。
②少年少女の犯罪。古処誠二さんの『少年たちの密室 (講談社ノベルス)』あまり似てるところはないかもしれませんが、やるせなさが似てるように思ったので。推理小説としても一級品。
③死神が現れる話。上遠野浩平さんの『ブギーポップは笑わない (電撃文庫 (0231))』決して死神の視点で語られることのない、死神の物語の始まりです。