暗黒童話

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鬱4癒し3ミステリ3
乙一暗黒童話 (集英社文庫)集英社,2004
乙一さんの作品感想


目が見えない少女のために、他の人の目を取ってくる烏の童話が作中作として収録されている、なんともグロテスクな出だし。烏が取ってきた目のおかげで、少女は色のついた世界を見れるという設定がドロドロしてる感じがします。
左の眼球と共に記憶をなくし、以前の性格とは打って変わってしまった少女・菜深の物語です。親を始め周囲から、自分には記憶にない昔の菜深と比べられる少女の苦しい心のうちが描かれていきます。
そんな彼女が眼球を移植する手術を受けた結果、何気なく見ていたものが引き金となり、元の眼球の持ち主・和弥の記憶を、映像として引き出していく現象を体験することに。
菜深は現実の生活からは目を背け、代わりにどんどんその映像にのめりこんでいき、和弥が住んでいたと思しき土地を訪ねるまでになります。


童話作家の視点も間に挟まれ、痛々しい描写はないものの吐き気を催しそうな世界が繰り広げられます。短編ならまだ慣れていたんですが、長編になると読むのが苦しいな〜。私にとってはドロリ濃厚過ぎたのです。
正直、前半は気持ち悪くなることばかりで、冷たく硬質な文章だなと思っていました。想像力を喚起させるような描写はないものの、逆に想像してしまったときのダメージは大きかったのですし。
終盤はミステリ的なひっくり返しなどもあり素直に楽しめます。また、菜深の成長という点でも読み応えあります。冷静な思考の中で、以前の菜深との関係で悩んだりする場面はわりと好きです。


死んでしまった人間の面影を、いつまでも追い続けていた」が頭の中にこびりつきました。美しいものはできるだけ記憶に残しておきたいですよね。ただ、冷静な観察者の目としてではなく、自分の経験を通して感じた視覚の記憶としてがいいと思います。
さてさて、七ページにも及ぶあとがきも面白かったです。次は同じ暗の字から始まるタイトルだからと間違えずに、『暗いところで待ち合わせ』を借りてくるとしよう。


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