RUN!RUN!RUN!

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シリアス6燃える4  <ピックアップ>
桂望実RUN!RUN!RUN!文芸春秋,2006


小さい頃から恐ろしいほどの才能を開花させ、小学四年生から毎日トレーニング日誌への記入を続けるなど努力も怠らない、まさに走るために生まれてきたような大学生・優の話。
駅伝にでるため、ひいてはオリンピックに出るためだけに優の生活はあります。血液検査を義務付けそれによってトレーニングの調整を行うなど、精神論ではなく科学的な練習を取り入れている大学に入学します。


優は部活仲間と自分とは関係ないと言い切り、自分のタイムを縮めることにだけ精を出します。そんな優なので私には共感できませんでした。スポーツ物、しかも私も経験した長距離の話だったらどうしても物語にのめり込んでしまうのですが、この本ではちょっと離れた視点で眺めることができました。
アスリートと言われる人なら、自分を鍛えることだけに腐心する一面もわりとあるとは思ってるんですがね。どうも優のそれは歪んでいるようにしか見えなかった。
また、優に期待している父親にルックスもよく医学部に在籍している兄、そして兄のことを構い続ける母親など無駄なことを一切しない家族もどこかおかしい。家族関係の歪は徐々に大きくなっていき、ちょっとしたきっかけで爆発しちゃいます。しかも、連鎖的に爆発していくのだから性質が悪い。


機械のごとく冷静に走りのけていた優の初めての迷いを支えるのは、占いをやって学生から金をとる保健室の先生・あさ美や対照的なコーチ・小松と佐野、そして優のことを尊敬する岩本などの部活の面々。
能力は低いくせにやたらと絡んでくる岩本に対して、最初は嫌がっていたのになんだかんだで優も近づいていきます。岩本の長所なんだろうな。しがらみのない雰囲気になり、優が岩本にリズムが大切だと何度も教えるくだりは気持ちよく読めた。
走らなくても成長するってところが、何だか逆説的でよかったな〜。優のように集中しすぎるとどこかが破綻してしまうので、力を抜いて周りを見る余裕を持つことも大事なんでしょうね。もっとも、私なんかだと楽にし過ぎていつもラン♪ラン♪ラン♪な状態なのでそれも問題なのですが。


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