断章のグリム⑤

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ホラー④ミステリ④鬱②
甲田学人断章のグリム〈5〉赤ずきん〈上〉 (電撃文庫)メディアワークス,2007


ホラーに童話考察がエッセンスとなっているシリーズ五冊目で、赤ずきんをモチーフにした物語の序章です。変形的な見立て殺人を解き明かす探偵と助手の物語ともいえるかも。前回の事件同様、今回もまた別の町へと赴きます。
そこでは、颯姫の妹・瑞姫や雪乃に敵対心をむき出しにしている少年・勇路が登場します。彼らの友達グループも関係してくるのですが、ただの仲良しグループというわけでもなく複雑な模様。また、世話役として笑美という女性が出てきますが、おとなし過ぎるので裏がありそう……ってなんてひどい読みじゃ。


神狩屋による赤ずきんの考察はやっぱり面白いな。身近な物語の知らない部分を知ることができますから。赤ずきんの物語に対する解釈や類型の話は、たくさんあるんですね〜。知っている赤ずきんちゃんとは、似ても似つかないものもありましたが。赤ずきんを踏まえた上で、この事件がどんな風に展開されていくのか楽しみでもあり不気味でもあり。


五章での犠牲者にはちょっと驚きました。私の中では、しぶとく生きるか狂気の世界に突入するかのどちらかだと思っていたので。
それにしても、死亡フラグの立て方が絶望的にうまいと思う。取り出してみればなんともない普通の一文なのに、流れからすると恐ろしい一文ってのがありますし。また、赤ずきんでおなじみの道具たちが、残酷な道具として描写されるシーンはやはり気持ち悪いです。
まあ、最後は萌えな感想で締めくくりましょうか。……雪乃の「殺すわよ」が、なんだか可愛く思えてきましたよー。


甲田学人さんの作品感想

断章のグリム④

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ホラー④鬱④ミステリ②
甲田学人断章のグリム〈4〉人魚姫(下) (電撃文庫)メディアワークス,2007


幻想新奇譚のシリーズ四作目であり、人魚姫の物語完結編。前回の続きで、広がっている物体の始末から千恵の傷の手当てなどで慌しいです。
一つ一つに対処しながらも、事件の全貌を暴くために人魚姫の物語の解釈を考えるんだけど、相変わらずの事ながらうまく推理が進みません。事件が起きる前に解決できてしまう探偵さんがいれば助かるんですけどね。ないものねだりをしても仕方ないんだけどさ。
ないものねだりに囚われてしまうと、それは狂気でしかありませんからね。千恵の母親・牧子の行動には薄ら寒いものがあります。目を背けたい。見ないのも怖いから見ますけど。


泡といい魚といい包丁といい、身近なものが出てくるので嫌な感じや痛さが簡単に想像できて気持ち悪くなる。魚卵とか白身とか単語の選び方もいやらしいったらありゃしない。
神狩屋の過去の話も語られるんですが、愛した人を亡くし最後のカレーシチューを眺めるシーンには心がギュッと鷲掴みにされた感じがしました。現実に味わいたくはないなと本気で思いますよ。
しかも物語の中ではさらに追い討ちをかける出来事もあり、もう勘弁してくださいです。あの辛すぎるカレーシチューは辛すぎる。こんなバカなことでも言わなきゃやってられません。


なんとも救いのない話です。主役の二人は生きたいと思っている限り大丈夫だと思うんですが、周りの八方塞感に影響されて堕ちてしまわないか心配です。頼りなさそうでも、神狩屋がいれば二人を守ってくれると思っていたんですがね。
身近な人物の歪さを見せ付けられることほど、気持ちが落ち込むことはないんじゃないかな。がんばって心を保ちつつ生き抜いて欲しいと願うことしかできません。


甲田学人さんの作品感想

息の長いシリーズになりそうですホラーxミステリ


甲田学人断章のグリム〈3〉人魚姫(上) (電撃文庫)メディアワークス,2006


童話を題材にホラーを描くシリーズ三作目。今回は人魚姫をモチーフにした残酷な現代の童話が紡がれています。モチーフがモチーフだからか、今回は泡と音にやたらと目がいってしまいました。最初に手を洗う場面があるのですが、なんでこの一つの行為だけでこうもグロい描写ができるのか不思議です。特に、不意に嫌な感覚に陥いり非日常に踏み込んでしまった瞬間の表現にはヒヤリとしました。実際にそんな瞬間がありそうで。
主人公の蒼衣とヒロインの雪乃、そしてグループのまとめ役である神狩屋は、県外の事件現場に向かう途中で神狩屋の婚約者だった女の妹・千恵とばったり出会ってしまい、妙な方向へ物語は走り始めます。この千恵は潔癖症なのですが、彼女の行動によって最初の手を洗うシーンが思い出されてしまうのでいい気分はしませんでしたよ。比較的軽いとはいえ、狂気に似ているものは見ているだけで不安になります。
婚約者だった女・志弦との過去も語られますが、一体どう関わってくるのか今のところ見当がつきませんね。自分では推理を放り投げていますが、神狩屋の知識と蒼衣の発想による、本質に迫ろうとする推理部分は結構好きです。これまで事件の解決においてあまり役立ってなかったのが、歯がゆいんだけどね。
精神を研ぎに研いで鋭くなったけど脆くなった感じの雪乃も、普通に囚われるあまりに不安定な立場にいる蒼衣も、どちらも危うそうだけど大丈夫だろうか、ともう今からいらぬ心配してます。希望があるとすれば、この不気味な現象と対峙するのが学校などの身近な場所に限定されていないことかな。学校のように普通の生活と接点があると、何となく安心しちゃいますよ。まあ、安心といっても、今回の事件もまだ始まったばかりで終わってないのが気がかりだけれども。最後は惨劇の幕開けとしては上々かな。
同著者類似バッチ

崩壊が一歩一歩近づいてきているような、遠ざかっているような……?ホラーxミステリ


甲田学人断章のグリム(2) ヘンゼルとグレーテル (電撃文庫)メディアワークス,2006   類似検索


メルヘンホラーシリーズの第二弾。前回の余韻に浸った始まりから、蒼衣と雪乃の立ち位置の確定へと物語は動きます。一番に対比されているのは忘れることのできない理由づけでしょうか。その辺をはっきりさせています。
今回のキーワードは副題にあるように「ヘンゼルとグレーテル」です。終盤は相変わらずの嫌な感じの描写が続きます。「四章 かまどとパン」の気色悪さと言ったら甲田さんの作品の中では過去最高。あとがきによると「スプーン一杯ほどの、グロテスク。」らしいのですが、よほど大きなスプーンじゃないかと。
QED―百人一首の呪 Amazon
でも確かに、今までの甲田さんの作品とは違うかもしれません。Missingシリーズにはなかった物理的な痛さが描写されていたし、夜魔とは違って登場人物たちの探偵っぽい面を前面に押してますしね。例えるなら、痛さをともなうことで青春っぽさを交えたメルヘン専門の『QED』シリーズ、みたいな。「――――見なきゃ。」こんな感じです。


甲田学人断章のグリム〈1〉灰かぶり (電撃文庫)メディアワークス,2006


甲田さんの新シリーズ。タイトルに童話を冠しているからか、キャラデザのおかげなのか判断つきませんが、Missingシリーズより年齢が全般的に低め。学園も舞台として登場したり、ホラーだったりと似ている部分もありますが、キャラは総入れ替えした印象を受けました。ヒロインの雪乃ちゃんは空目と似ているかと思っていましたが、空目よりは人間的に見えます。人生を諦めきっているようで徹底していないところがかわいらしさの秘訣か。その点では、空目よりも亜紀に近いですね女の子だし。主人公の蒼衣は近藤に近いけど、近藤より冷めた視線を持ってるのかな。まあ、二人の関係は前シリーズよりも強い探偵小説ぶりを発揮しています。
ほかにも魅力的なキャラが多数登場しており、まだまだ謎に包まれている人も多いので今後にも期待できます。
童話を扱っているといっても、もちろん怖い話に違いなく。Missingでも童話や昔話は好んで使われていましたからね。穏やかそうだと思っていると、突然に怪異に思わぬ痛手を受けることになりかねません。
同じ意味の文章を、言い換え・言い直し・リフレインさせる。こんな風に際立たせる文章を書くのが本当にうまいと思います。


③ ダーク・バイオレッツ② ぼくと魔女式アポカリプス① 夜魔
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水瀬葉月さんの『ぼくと魔女式アポカリプス』ヒロインの魔法がよく似てる。→感想
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