スロー・リーディング その1

毛布おばけと金曜日の階段  Amazon
毛布おばけと金曜日の階段 (電撃文庫)
・13ページ  最初の一行で、両親があっさり退場しています。子供にとって親の影響って大きいと思うのですが、おかまいなしです。むしろ、「あたしの見るところではショックに耐えられないふうを装って、その心を守っているに違いない」とあるように親に対してシビアな態度。
主人公の未明(ここでは名前が明らかになっていないけど)は悲しみを克服し、普通に生活している状態であること、少なくとも自分はそう思っていることが提示されます。
またここでは、交通事故で肉親を亡くすなどショック状態になったとき、「悲しみにだって飽きてしまう」か「お母さんのようになってしまう」と一般的な結果を示した後、逆説による否定「しかし、お姉ちゃんはあたしと違い、なにかが少しズレてしまったようだった」と書かれています。
私のように悲しみに飽きたわけでもなく、母のように心が折れてしまったわけでもないお姉ちゃんの状態が、「お姉ちゃんは時々、毛布おばけになること」と説明されます。「毛布」と「おばけ」の組み合わせが面白いです。


・14、15ページ  最初の行は「友達の真琴ちゃん」による主人公への問いかけです。「ねえ、未明ちゃん、今日時間ある?」それに対して未明は断るのですが、その理由が「なにしろ今日は金曜日である」からという不思議なもの。さきほどの「毛布おばけ」と同じく、タイトルにも登場する単語。
未明にとって真琴ちゃんは「彼女の笑みはいつもあたしを動揺させる」ほどの存在ですが、「もっと心配なこと」があるために彼女の約束を先延ばしにして、「早足で家へと向か」います。
そんな未明が、階段の踊り場で遭遇するのが毛布おばけです。その実態は、お嬢様学校に通い可愛らしく快活な性格なお姉ちゃんが、毛布に包まっているというもの。週に一度だけ変身するのですが、「金曜日はお父さんの死んじゃった日だ……」と父親の死が原因であることが描かれています。
そして週に一度だけ変身するお姉ちゃんについて、未明は「どちらが姉の正体なのかよくわからないが、おそらく毛布おばけのほうがそうなんじゃないかとあたしは見当をつけている」と述べています。
確かに、呼びかけるときは「お姉ちゃん、シュークリーム買ってきたよ」ですが、地の文は「毛布おばけがむっくりと起きあがった」「毛布おばけは肯いた」などと表現されています。今後もこの使い分けは注意かも。