道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳

道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳  Amazon
ミステリ7コミカル3 <ピックアップ6>
愛川晶道具屋殺人事件──神田紅梅亭寄席物帳 [ミステリー・リーグ]原書房,2007
愛川晶さんの作品感想


将来有望な落語家・福の助の妻である亮子が巻き込まれる、落語の世界を舞台にしたミステリ。architectさんの感想を読んで手にとりました。
師匠に身分不相応な噺の稽古をお願いする「道具屋殺人事件」フグの毒にあたった男の葬式を巡る話に新しいサゲを考える「らくだのサゲ」得な噺ばかりを高座にかける弟弟子が登場する「勘定板の亀吉」の3話。


私も落研に所属していたので、子ほめや寄合酒など聞き覚えのある噺が出てくると特に親しみが湧きました。また、カゼやマンダラなどの基礎用語から噺家の世界で使われる言葉の解説などもあります。
落研にいたとは言っても、落語の世界に詳しいわけではなかったので、この親切仕様はありがたかったです。落語の世界が覗き見できますよ。なにせ落語の世界そのもの自体が謎に満ちていてドキドキしますからね。


福の助の元師匠で寝たきりの馬春師匠が、話を聞いて謎を解くという趣向。文字盤を使ってのやりとりであり、なおかつ師匠は全部を明かしてくれないので、やきもきします。真相が分かるまでに結構遠回りしますね〜。
もし謎解きだけを追っていくと、回りくどいと思ってしまうかも。でも事件の推理の間に、福の助が落語の壁を乗り越えようと、四苦八苦しながらも成長するのを見届けられる、その上事件とも絡んでくる部分が最大の魅力。
特に「らくだのサゲ」での新たな解釈は面白かったなー。言われてみれば不思議なんだけど、その辺りを深く考えたこともなかったです。愛川さんの落語への愛がどうしたって伝わってくる、そんな暖かな本でした。


この小説が好きな人にお勧めする3
1 笑酔亭梅寿謎解噺  Amazon2 しゃべれどもしゃべれども  Amazon3 空飛ぶ馬  Amazon
1、田中啓文さんの小説「笑酔亭梅寿謎解噺 シリーズ」新しく入った落語の世界で戸惑う前座・竜二が事件に巻き込まれる話。→シリーズ感想
2、佐藤多佳子さんの小説『しゃべれどもしゃべれども』福の助と同じく二つ目・三つ葉が話教室を開く話。→感想
3、北村薫さんの小説「円紫さんと私 シリーズ」ちょいと趣向は違いますが、真打の落語家・円紫さんが登場するミステリといったらこれ。