空ろの箱と零のマリア

空ろの箱と零のマリア  Amazon
ミステリ5鬱3泣ける2 <ピックアップ5>
御影瑛路空ろの箱と零のマリア (電撃文庫)アスキーメディアワークス,2009
御影瑛路さんの作品感想


ループ物ということはあらすじなどで分かっていましたが、最初はどのように読めばいいのか迷いました。どういうタイプのループ物なのか判断つかなかったので。転校生の彩矢に目をつけられる一輝の視点で、物語は進んでいきます。
ループ回数を表すような数字などで不気味さだけは漂ってくるものの、クラスメイトとのやりとりはコミカルだし、「今日の茂木霞のパンツの色は水色だ」発言なんかもあり、戸惑ってしまいましたよ。


物語に接する態度に悩んだのはほんの序盤だけで、ループを自覚して困惑し、さらにループそのものを巡る話になってくると方向性もわかります。
しかし、方向性が分かるだけで、物語の反転に次ぐ反転で何を信じればいいのか分からなくなるのですが。再びの迷子。色々と謎は隠されているのですが、知れば知るほどげんなりしていきます。
新事実が矢継ぎ早に突きつけられ、その度に新しい絶望を重ねるわけです。謎が少し解明したという安心感と、判明した出来事で鬱屈させられるという矛盾の連続。ある意味ループ。


読者と同じく、手探りでループに立ち向かう一輝の行動に燃えた場面もありました。友人を巻き込んで困難に立ち向かおうとしたりも。妄想のようなお話に、力を貸してくれる友人たちはかっこよかったな〜。「――お前が星野一輝を敵にするのならば、永久に死なない俺を敵に回すぜ」は名台詞。
また、感情が本当に自分の心から自然発生したものなのか思い悩む場面も興味深かったです。私には、ここが物語の核のように思われました。「明日まで待って」も印象強し。


前作を読んだときに、「透き通ったイメージの小説も読んでみたい」って書いたけど、希望が叶ったようです。感情に対する透明度は高め。世界観はごちゃっとしてるけど、これによるミステリ要素がうまい具合に透明度を高める装置として働いていたと思います。期待以上に面白かったのですよー。


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