携帯電話俺

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コミカル4シリアス3燃える3
水市恵『携帯電話俺 (ガガガ文庫 み 1-1)小学館,2007
水市恵さんの作品感想


からだに防水スプレーがかけられたばかりなので、どうも臭いが気になりますな。わたしが人間だったら呼吸困難になっているところでしょうに。
こんなところで愚痴を言っても仕方のないことですな。今日の感想を述べさせてもらうと致しましょう。わたしの持ち主が本日読まれました本は、「携帯電話俺」という文庫でございます。秋山真琴さんの感想を読んで手にとられたとか。


タイトル通り、ある日起きると男子大学生が携帯電話になっているというこの物語。人間ではないものが、人間と同じように思考するというのはおかしな感覚でございましょう。110ページ辺りまでの下りは特に魅力的だったのか、持ち主も何度も繰り返しページを行ったり来たりしておりました。
突然の出来事に発狂するはずなのですが、主人公は万事が万事冷静に対処していきます。周囲の環境を一つ一つ確認していき、何ページもかけてようやく自分が携帯になってしまったと気づく始末。……恥ずかしながら、わたしは自分がブックカバーだと初めて知ったときは、驚きのあまり本のカバーを折ってしまいました。
バイブ機能やメールの内容を読むなど、自分がどんな動作ができるかチェックしていくその様は、実際に体験することはできず想像しかできないので不思議な気分でございます。わたしにはそこまで複雑な機能はないので羨ましくもありますな。


異常事態なのに、笑える部分はずいぶんとユーモアに溢れております。映画館にて音声だけでも楽しもうと意気込む主人公の末路は、かなり滑稽だったのか、わたしを握る手にも力がこめられていました。
わたしとしては、動きが取れない携帯電話の主人公の目の前で着替え「わたしの体に興味ある?」と少女に尋ねられる場面がそそられる……いや、失敬。現在の持ち主が男手あることに不満があるわけではないのですが(汗)おっと、汗は体に毒でしたな。皮であることをすぐに忘れてしまうのは気をつけるべきですな。


携帯電話という客観的な視点だったために得ることのできた情報なども、眺めていて面白かったですな。わたしは役割柄、携帯されていてもカバンの中に入っていることが多いので、告白に纏わる話は魅力的でして。わたしも体験したい、あやかりたいものです。
魔術合戦や喋るカブト虫なども物語に関わりを持っております。設定が設定なだけに、思考が筒抜けでもある程度無難に対処する主人公が、逆に映えますな。なんとも言えない妙な味わいになりますから。わたしの持ち主も、自分の言葉では語れないので、わたしに語らせたとのこと。ブックカバーであるわたしに何を求めているんだか。


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