天使が開けた密室

ミステリ⑦コミカル③
谷原秋桜子天使が開けた密室 (創元推理文庫)東京創元社,2006


webの情報を読んで手に取りました。元は富士ミスで出版されていたもの。
父親を探すために、渡航費用を稼ごうとバイトに励む高校生・美波が事件に巻き込まれる話。普通のバイトをしていた美波ですが、ある事件で多額の借金を抱えてしまうため、奇妙なバイトに手を出してしまいます。
最初に言いたいのは、例のばあさんとお菊ばばあに腹が立った。メインの事件と関係ないんだけど、そこでもう腹が煮えくり返った。まあ最近はバイト不足のほうが多いと思うから、こんなことにはならんと思うけどさ。美波ちゃん健気過ぎだよ。……こんなに突っ込むところじゃないんだけどさ。
そんなわけで、寝ているだけで五千円もらえるというおいしい話に飛びつきますが、おいしくて奇妙なバイトが簡単にいくはずもなく。死体を運ぶために夜な夜な病院へと出かけることになります。
不気味な状況下で、殺人事件が起きてしまいます。しかも、衆人環視の密室という密室殺人。容疑者は美波自身。この事件には、美波の友人・かのこがお見舞いにいく社長の一家だとか、医者と看護婦とか葬儀屋とか、病院に関わる人たちの思惑が様々に重なり合います。
かのこや行動派の直海が手を取り合い、美波の容疑を晴らすべく推理をするところはなかなか楽しかった。当たり前のように迷走しますがー。そして、明らかになる真実。密室の解法も面白かったけど、心の密室の内容が興味深かったな〜。もちろん、メインキャラたちの性格なんかは漫画寄りだけど、謎解き自体は普通にミステリしてましたよ。面白かった。


また、ドラゴンマガジンに掲載されていた短編「たった、二十九分の誘拐」も収録されています。この話がめちゃ好み。競歩の話題が出てきますが、競歩は見ている以上に難しいんだよなとか、主人公たち同じようなこと考えてました。
事件の発端は、直海が先輩から借りていた携帯に、弟を誘拐したと電話がかかってくることから。必死で犯人の命令を聞く直海と美波ですが、事件は意外な解決をみせるという話。これも日常の謎になるんかな? とにかく、こういう謎解き話はミステリの中でも特に好きです。なんてか自分でも書きたくなるくらい。がんばろう。


どちらの話も、わりと限定された状況下において、論理的に考えて謎を解くタイプだと思う。事件が起きてから解決までにそう時間をかけずに、テンポよく進んでいくところもよかった。次巻も読むことは決定です。 
同著者作品感想
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