断章のグリム 10

断章のグリム 10  Amazon
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甲田学人断章のグリム〈10〉いばら姫〈上〉 (電撃文庫)アスキーメディアワークス,2009
シリーズ感想
甲田学人さんの作品感想
今回は「いばら姫」を題材にした、ホラーシリーズ10巻目。眠り姫として覚えている話だったけれども、どんな結末だったのか忘れていましたよ。
キーとなるのは、死んだ姉と同じ名前をつけられ、転生するという話題を嫌う少女・莉緒でしょう。名前をつけられるという、自分では足掻きようのない出来事が関係するので嫌な感じです。この辺り、生まれたときの占いが作用するいばら姫と似通っているかも。


と、童話との関連を見出すのは神狩屋や蒼衣に任せておきましょうか。モチーフを巡る会話は、電話だけのやりとりとはいえ相変わらず絶好調です。むしろ電話だけのほうが、伝えるべき言葉の量は多くなってしまうか。
そして、カラーイラストから気になっていたけれども、今回の話は家の中だけと場所が限定されています。いつもと切り口が違って面白いですね。


針という想像しやすい痛みの描写はもちろん、いばらが関係してくるシーンは気持ち悪く、体が痒くなってきます。
特に莉緒の弟・耀が、薄暗い灯の中で怪異に対処しようとする場面は目をそらしたくなるほど必見。叫び声を上げる瞬間的な怖さではなく、思わず周囲を確認したくなる、ぺた……ぺた……と染み絡み付いてくる気味の悪さ。
絶対に不可能な状況より、耐えればやり過ごせるような危機なのがいやらしい。そして、乗り越えてなお絶望を与えてくれるのだから最悪です。
不気味な箇所は思考だけ空回りして、考えた分だけ棘が絡みついて抜け出せない雰囲気。最後は思わぬ終わり方をしているので気になります。