プシュケの涙

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シリアス5癒し3鬱2 <ピックアップ5>
柴村仁プシュケの涙 (電撃文庫)アスキーメディアワークス,2009
柴村仁さんの作品感想
落下する少女と目が合った江戸川となぜ自殺したのかを知りたがる変人の由良、そして地面に叩きつけられた本人である吉野の話。
前半は江戸川の視点で描かれているのですが、受験生ということでカリカリしてるのか、ちょっとひねくれた感じの高校生っぽい印象でした。ただ、由良が無言でいると気まずくて喋りかけてしまうとか、由良のほうがひねくれ度では上な様子。
まあ、江戸川が由良と接していて動揺してしまうのもよく分かります。万事が万事変な人なら理解できなくもないけど、文化祭の準備中にふっと吉野の話題を振ったりするなど、緩急をつけて揺さぶられるとどこで落ち着けばいいのか分からなくなりますよ。
そして、物語は語られ、吉野が最後に残した絵の話にも繋がっていきます。蝶を書くことになった理由とか聞いてると、不器用すぎのが悔しくて辛抱できなくなりますね。


後半は二年生のときの由良が、転校生の水衣の視点で描かれます。頑なに心を閉ざしていた水衣が、警戒しつつも由良の翻弄されてガードを解いていく辺りは安心できる流れ。それだけに水衣の父親の存在が許せなくなります。「いやー、ホント、俺の子供はいい子ばっかり」とか聞いてると、虫唾が走るという意味が分かったような気がします。
強引とも言える手法で、しかし水衣の心を開いた由良は本当にあっぱれですよ。「他に嫌いなものは?」とかさらりと言えてる部分が印象的。これが告白へのきっかけとなったような。


感想書きつつ前半部分をもう一度さらっと流し読みしてみたけれど、よかったなー。いや、よくはないんだけれど綺麗だなー。涙でできたシャボン玉みたいな話でした。蝶みたいにゆらゆら浮いてる感じ。割れてしまわないように、見守りたくなる。いずれは割れるんだけど。
そう言えば、柴村さんは今のところ三作単発が続いているけれども、方向性を探っている段階なのでしょうか。どれも面白かったけれども、私の希望としては、他でなかなか出会うことが出来ない味わいのある、この物語のような作品が読みたいです。


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