断章のグリム 9

断章のグリム 9  Amazon
ホラー5癒し3鬱2 <ピックアップ3>
甲田学人断章のグリム〈9〉なでしこ〈下〉 (電撃文庫)アスキー・メディアワークス,2008
シリーズ感想
甲田学人さんの作品感想
「なでしこ」の物語がモチーフの怪異に巻き込まれる、雪乃と蒼衣を描いたシリーズ9巻目。
最初の間章から、自責の念にさいなまれる少女が登場するのですが非常に痛々しかったです。終わり方はかなりえぐいですし。なかなか終わらないから、肌がざわざわしてきて痒くなり思わず顔や肩を手で触ったりも。
密度の高い具体的な描写で想起させられてからの、空白・行間が中心にあり短い単語や擬音語が添えられている部分はきつかったです。体感時間も長くなったしプレシャーに耐えるのが大変でした。そういう意味では、静寂やら無音も怖いですな。想像力をかきたてられますから。


そんな恐ろしい知らない世界にも、ぐいぐい入ってくる臣は本当に強いと思う。そんな臣と彼を守ろうとする一真の関係がどうなっていくのか、そんなこれまでとはちょっと違った部分でも興味深い部分がありましたよ。
親友である二人の少年の気持ちのすれ違いとか、至って青春的なモチーフってこれまであんまりなかったような。また、この二人を主に視点の入れ替えが多く、先が気になる引きが多用されていたのも新鮮でした。これまで気づかなかっただけでしょうか。


花が変質していくシーンのグロさ100%です。こんな生々しい描写はやめておくれよ。終盤の千恵での急な視点変換でも驚いたし、戸惑ったし、少し怖かったのです。
ただそれ以降の種明かし付近から、気味の悪さとか悪寒は減って、登場人物たちが迷いつつも覚悟し決断に至る過程が面白かったです。群草さんの覚悟は、なんというか憧れではあるけれど、きっと私には理解できないと思うな。私では近づけない領域ですよ。でも、最後の最後まで信念を貫き通す姿に心揺さぶられないのは、それこそ怪異くらいだと思うのですよ。


設定はもちろん違うのだけれど、同じく現代ホラーな甲田さんの前作「Missing シリーズ」ではあり得なかった、普通に希望が残せる終わり方でした。私としてはこちらのが好きかな。Missingの方が絶望一色でその分だけ綺麗なんだけどもさ。……まあ次の話は、またまた読んでヒリヒリするような描写満載だと思うので、この安息は束の間のものでしょうが〜。