首吊少女亭

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シリアス6鬱2ミステリ2
北原尚彦『首吊少女亭 (ふしぎ文学館)出版芸術社,2007
北原尚彦さんの作品感想


ほとんどが1800年代のイギリス、ヴィクトリア朝を舞台にした短編。12作品が収録されています。秋山真琴さんの感想を読んで手にとりました。
異国の、しかも200年近く前の時代とあって、どの作品も古めかしい雰囲気が漂っています。浚い屋とか泥ひばりなんて職業もあったそうで。
どれもこれもねっとりとした嫌らしいオチがついています。作品全体が暗く、欲にまみれているので、序盤の流れとのギャップに鬱になるみたいなことはなかったけども。そういう意味では「怪人撥条足男」が冒険譚っぽくて、ちょいといい話かなと思い始めた矢先のオチでへこみました。


貯金箱」乳母が遭遇する悪夢にぞっとしました。気づいてしまいそこから目が離せないけれども、自分では動きようがないジレンマというか、金縛りにあってる状態が非常にやりきれない。
凶刃」のように実際の事件の裏話形式で進んでいくものもありました。「愛書家倶楽部」は、倶楽部の秘密に目をやっていて、オチに気づかなかったので最後で目が覚めました。
活人画」のエロティックな描写には、見えないけれどもついつい呑まれてしまいましたよ。話の展開は特にびっくりするものはなかったけれども、最後に一回では終わらず、次々と描写される絵画には不気味さがぁー。


各短編ごとに北原さんによる解説がついています。普段は読まないタイプの作品だけに知識も乏しく、読み流していた部分に気づかされたりも。これのおかげで、作品自体の味わいにもさっぱりさが加わり、次の作品を読む体勢も整いました。食後のデザートみたいな感じ。
どの作品もまとまっていて、統一感がありました。本書全体としては、ちょっと背伸びした価格のコース料理とか食べてる印象。そういうの食べるとき、おいしさを求めるのは当然ですが、それだけだと私の感覚では金額とわりが合わないんですよね。チキンラーメンも大好きなので。
でも、非常に時間がゆったりと流れていくのが心地よいのです。これ、チキンラーメンじゃ無理。コースを全部食べ終えると、そんなに量を食べたつもりがなくても、いつの間にやら二時間くらい経ってますから。そんなおいしい体験が出来ました。


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