「記憶」「読書倶楽部」「ドア」

先週分の感想は三冊。『神様が用意してくれた場所2 明日をほんの少し』(→感想)『青年のための読書クラブ』(→感想)『ドアーズ 1 (1)』(→感想)でした。そこからお題拝借。また、読書ですか〜。


『クラブ活動』


美弥子は部屋の中に入るのを躊躇した。嫌な予感がしたからだ。いや、廊下まで声が聞こえてきてた時点で、予感というよりも確信だった。というか毎度のことだった
案の定、部屋の中では部長と副部長が言い争っていた。まあ争っているというよりも、副部長が一方的に責めている状況だけれども。
「あの〜、なにがあったんですか?」
「どうしたもこうしたもないわよ。こいつが急に驚かせるもんだから」
「驚かせるつもりなんて全然ないし、普通に入ってきただけなんだけどな」
「そんなの嘘に決まってる。ちゃんと扉は閉めましたっ。普通に入ってきたなら音がするはずじゃない」
そういって副部長が指し示す先はこの部屋、つまり図書室のドアだった。ここのドアは立て付けが悪いのか、開閉するたびにザザザと擦れる音が出てしまう。もちろん美弥子も、この音がするたびに誰かが入ってきたんだなと目を向けなくても分かるようになっている。わりと耳に残る音なので気づきやすく、もう習慣みたいなものだった。
もっとも、中学校の図書室に用がありこのドアを開けるメンバーなど、美弥子も所属する読書倶楽部の面々など限られた極少数だった。
「あのさ、読書に熱中してて気づかなかっただけじゃないのかな」
「そこまで読書に熱中するとでも思ってるの!? 先生が新しく入れてくださった本をぱらぱら眺めてただけです」
部長が困りきった顔でつぶやいたが、副部長はそれを即座に否定した。確かに美弥子にとっても、副部長が熱心に本を読んでいるところなど想像できなかった。スポーツに打ち込んでいる姿なら簡単に思い浮かべることができるのに……。
仮にも読書倶楽部の副部長がそれでいいのかと美弥子は突っ込みたかったが、それよりもこの不毛な問題を解決する糸口が見えたので、さっさと部長に尋ねた。
「ねえ部長、ここに入ってくるときドアを開けた記憶があります?」
「へっ? て、そりゃドアを開けなきゃ入れないでしょ……あっ」
美弥子の想像は正しかったようだ。つまり、新しい本を搬入しに入ってきた先生が、扉を閉め忘れただけの話なのだ。そして、部長も元からドアが開いていたことなど気にしていなかったと。
「自分がドアを開けたか開けなかったくらい覚えときなさいよ」
「そっちだって覚えてなかったでしょ……そもそも、あんなに驚かなくても」
「なに言ってるの。急に人が来たらびっくりするのが当たりま」
そのとき、ドサっという音で副部長の言葉は遮られた。副部長が読んでいたであろう本が、机から落ちたのだ。
ダイエットに関する本だった。
それぞれが思い思いに沈黙する中、一番最初に口を開いたのは部長だった。
「そういえば、小学生のころは自衛隊に入りたいとか言ってたよね。……ええと、一足お先に入隊?」
部長、それはフォローになってませんよと美弥子は心の中でつぶやいた。静かな読書タイムは、まだまだ遠い。