ツンデレ上司と火曜日のおでん

ツンデレ上司と火曜日のおでん  Anazon
この本は存在しませんあしからず
橋本紛『ツンデレ上司と火曜日のおでん』メディアクークス,2008


橋本さんの曜日シリーズ、約一年ぶり新作。学生生活とのギャップに戸惑いながらも営業に駆けずり回る、新入社員・次郎の日々を描いた作品。以下の感想はネタバレを気にせず書いているので、未読者は読まないほうがいいでしょう。


次郎は自分なりに一生懸命やるものの、失敗が絶えず、上司の順子には怒鳴られてばかりの毎日。同期が要領よく仕事を覚えていくのに対して、次郎は思うようにいかない。徐々にやる気がそがれていくのですが、その過程がリアルで怖いな。
職場の重苦しい雰囲気の描写は読んでいるのが辛かった。私も来月からこんな目に会うかも知れませんし。疲れてきた次郎が仕事を辞めようと考え始めちゃうのも、仕方のないことでしょう。


そんな次郎ですが、仕事を終えたある火曜日の帰宅途中におでんの屋台を発見することから、意外な展開になっていきます。そこでおでんを食べつつ、普段は飲まない酒を自棄になって飲んでいるところへ、順子がやってくるんですよ。
鬱憤がたまっていた次郎は、酒の勢いもあり順子に辞めることを伝えるんですが、順子は黙ったまま。沈黙の後に出てくるのが、「……あんたがいなくなったら私はどうすればいいのよっ。……べ、別に寂しいわけじゃないんだからね!」という涙声のセリフ。その後の「か、からしが効きすぎただけなんだから!」と合わせていい感じです。
仕事場のツンツンしたのとは全然違う順子の態度に次郎は驚きますが、この人はツンデレなんだと納得。その納得の仕方はどうかと思いますがー。


その後も、職場でなじられつつおでん屋台で甘えられつつの日々を過ごしていきますが、ついに次郎は告白を決心します。この辺りは、橋本さんらしからぬコミカルさが詰まっていて、読んでて楽しいですな。
でも、この展開から順子に振られるとは、次郎のみならず私も想像しなかった。ラブラブな話に持っていくのかと思っていたんですが、違いましたね。しかも、「仕事もできないくせに何言ってるの、気持ち悪い。馬鹿じゃないの」と、手厳しい振られ方だし。
周りに人がいたから恥ずかしくてツンされたんだと考えるものの、その日の順子はおでんを食べにも来ない。
不安や疑問に押しつぶされそうになっている次郎への、おでん屋のオヤジの一言が素敵です。「大根だって元々はこんなに硬いんだよ、兄ちゃん。でもな、じっくり煮込むことでこんなにやわらかくなる。ここが腕の見せ所ってやつだよ。ツンデレだって一緒さ。女なんて最初はツンツンしかしてないんだよ。いかにデレさせるかじゃないのかい?


順子の不可解な行動に首をかしげつつも、オヤジのアドバイスに従って、次郎は本気で仕事に打ち込みます。それで次郎は気付いちゃうんですよね。外回りの営業でかいた汗を、ぬぐおうとしたときに。
夜に次郎が確かめに行って、真実を知ってしまいます。こんな真夏に、おでんの屋台があるわけないことに。
屋台のおでんもツンデレのデレも全て幻だったとは……。ツンデレなんてオタクの都合のいい妄想でしかないなんて現実を見せ付けられたら、私だったら引きこもりますね、ええ。
なのになぜでしょう。この物語の読後感はとてもすがすがしい。読み終わった今、次郎の心の成長を見届けることができてよかったっていう気持ちしかありません。おでんもツンデレも幻覚だったとしても、次郎の最後の決意だけは本物だと確信できるからかも知れませんね。面白かったです、おすすめ。


橋本紛さんの作品感想


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