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ミステリ④恋愛④シリアス②
佐藤正午Y (ハルキ文庫)角川春樹事務所,2001


秋山真琴さんのコメントを読んで手に取りました。あの日、あの場所に戻ることができたらと願い続けた男の話。Yの字のように枝分かれになってしまった未来があるとしたら、分岐点まで戻りたいと願うわけです。
妻と娘が家を出て行った日、出版社の営業部員・秋間の元に高校時代の親友だったという北川健という男から電話がかかってきて、あるフロッピーの中身を見て欲しいと頼まれます。秋間の記憶に北川なんていう男の名はなかったし、ましてや親友だったなんてことに思い当たりがない。
そんな風に、最初からミステリアスな話が展開されていきます。小説風のフロッピーの内容と秋間の動きとが交互して出てくるのですが、一体何が過去に起きていたのか、フロッピーの中身と現実との関係性はどうなのかなど、無性に先が気になるストーリーです。北川という男の正体も見えてきませんし。
ささいな出来事が運命を変えていくようなフロッピーの内容そのものも興味深いのですが、その内容が秋間のこれまでの人生と絡んでくるんじゃないのかと思えて面白さ倍増です。


ジャンプ』の感想の中で私は「縁なんて思ったより簡単に消えちゃうものなのかも」と書きましたが、間違っていたように思う。縁はそう簡単に消えるもんじゃないですね。というか、別れる日がこようとも、出合った時点で縁があったわけですから。
縁なんてどんな形で現れるか分からないものだってことを忘れていましたよ。時間的に本来とは逆向きの郷愁という言葉が印象に残っています。
この縁についてもそうですが、絶対的な解答はこの物語の中で出されなかったと思う。秋間がどういう結論を出したのかという部分も、わりと想像の余地が残ったものになっていたと思うし。
観察者のような視点で進んでいくのですが、この物語にぴったりでしたね。読み終わってみると、失くしたものがあるような、得たものがあるような不思議な感覚を味わいました。ただ、悪くない感覚でしたよ。


佐藤正午さんの作品感想


この小説が好きな人にお勧めする③
①佐藤さんの小説『ジャンプ』前触れもなく失踪してしまった彼女を追う男の話。→感想
北村薫さんの小説「時と人 三部作」いつの間にか時間を跳躍していたり同じ時を繰り返す女性たちの話。
新城カズマさんの小説「サマー/タイム/トラベラー」未来に飛ぶ少女と彼女を見守る少年の話。→シリーズ感想
① ジャンプ  Amazon② スキップ  Amazon③ サマー/タイム/トラベラー  Amazon