空色ヒッチハイカー

空色ヒッチハイカー  Amazon
癒し⑥コミカル④
橋本紡空色ヒッチハイカー』新潮社,2006


お兄ちゃんのキャデラックに乗り、目的地に向かい車を走らせる彰二の話。彰二は18歳の高校生で無免許、やんちゃですな。ただ目的地に向かうだけではなく、ヒッチハイカーを拾おうと決意します。
まずは最初は、少し年上に見える杏子という女性を乗せます。魅力的な女性なんですよね、精神的にも肉体的にもー。ライターを探すふりをしつつも、スカートの中の見えそうで見えない下着が気になる彰二はいい性格してます。それに負けない小悪魔的な杏子の態度もいい。私も「彰二君、どこを探してたのかな?」とか言われてみたい。想像しただけでドキドキしちゃいますよ。
恋愛の話ではないけれど、彰二と杏子の関係も見所なんですよね。ラブホテルに二人でご宿泊することになったりとか、森の中とかでいい雰囲気になりつつも、なかなか最後の一線を越えられない彰二にニヤリ。
そうそう、空色の由来って杏子の持ち物からなんでしょうか。彰二はやはりエロだな。


大人のふりして案外子どもの心を持っている彰二の視点だからか、コミカルな話が続いていくので読んでて飽きません。
旅の途中で欲望に負けて横着いことしてますが、高所恐怖症のくせにバンジーを飛んだり、イチゴ飛ばし競技に挑戦したりする、彰二のいい意味でのいい加減さは好きですね〜。自分の体験を杏子に告白させられる彰二はかわいいやつですし。
合間合間には、過去のリレーの話やお兄ちゃんとの思い出の回想シーンも登場します。全体的にあっさりとした語り口が、説教臭くなくていいですね。でも、訴えかけてくるなにかはあります。
説教臭くないといえば、お兄ちゃんと見た映画「ファンダンゴ」にまつわる話も印象深いです。内容の良し悪しを飛び越えて、特別な作品になることってあるよな〜、ってすごく納得できた。確かに、彰二が背中を追いかけたくなるような、素敵なお兄ちゃんですよ。


杏子を乗せてから、次から次へとヒッチハイカーが見つかります。上司に不満のある営業マンだったり、無口なお爺ちゃんだったり、車を揺らすような人だったり、かしましい二人組みの少女だったり、小さな女の子だったり、筋金入りのヒッチハイカーだったり……。色んな人が乗り込んできます。
お爺ちゃんの話とか好きなんだけど、あっという間に去っていきますよ。ヒッチハイカーなんだから目的地に着けば降りるわけで、考えてみれば当たり前なんだけどちょっと寂しいなとか思った。
そんなところは、人生と似てるかもしれませんね。ある人と出合ったとしても、長く一緒にいる人はそんなにたくさんいませんから。膨大な数の人と接触するわけですから、交錯した時間の中で相手にどんな影響を与えたのか、見届けれないことのほうが多いです。
こんな風に思ったのも、彰二のたった一人の友人・箭野の話のせいかな。どんなきっかけがあって仲良くなったり別れたりするか分かりませんし。意外に理由なんてないかも知れません。


人生と似ている話を続けると、この物語みたいに特別な出来事がまったくなかったとしても日常は大切なものだし、人によって過ごし方も多種多様なんだなって改めて思った。
車を走らせるにしても、目的地に向かってひたすら進むのもありでしょうし、回り道をしながら風景を楽しむのもいいでしょう。同乗者との会話を弾ませたり、電波ソングを聞いているってのもありだと思う。
あるいは車を降りるのも面白そうですね。歩いたり走ったり、はたまたヒッチハイクでもして他の車に乗せてもらったりすることもあるんかな。
う〜ん、そんなこと妄想しだすとどんな出来事も楽しくなってきちゃいそうです。杏子さんも「迷うことこそ、長距離ドライブの醍醐味じゃないの」なんて言ってますし。事故にさえ気をつければいいさ。


星が多すぎて星座を見つけられないシーンがありますが、屋久島に行って満天の星空見た身としてはすごく共感できた。例え目的の星が定まっていても、見つけるのは困難なんですよね。星でさえそうなんですから、人生の最終的な目的地なんて見つからなくて当然かも。
でも、星は眺めているだけでも綺麗ですし、人生だって歩んでいるだけでも素敵なことかもしれませんね。そう思いたくなった物語でした。


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