一瞬の風になれ③

一瞬の風になれ③  Amazon
燃える⑥泣ける②恋愛②
佐藤多佳子一瞬の風になれ 第三部 -ドン-講談社,2006


短距離に打ち込む陸上部員・新ニを描いたシリーズ三巻目にして最終巻。
前回以上に恋愛模様も出てきますね。新ニのそれは、はがゆいくらいに甘酸っぱいです。うまやましいよ。連ではありませんが、「おまえ、一生、童貞やっとけ」と叫びたいです。こんちくしょーって感じ。
もっとも、割かれているページの大半は陸上に打ち込んでいる姿です。最初の兄弟の話で出てくる、なくして初めて気づくことが多いからままならない、なんてのも印象的でした。


陸上の素人だった一年生のときとは違い力をつけているので、がむしゃらに走るだけではなく走りの展開も考えはじめたりします。短距離選手ではなかったので、100メートルでもレース展開があることさえも知りませんでしたよ。
本気で打ち込んでいるだけあって、新ニの成長は目覚しいです。大会に出るたびに何かを掴んでいてすごいなと思う。
砂浜で3000メートル走るところとか、理由はよく分かんないけど好きです。連とラーメン食べてるシーンも楽しかったな〜。照れからなのか、バカな話をしつつも陸上の話をしてました。新ニはもちろん、連も成長してることが伺えます。ずいぶんと変わったもんだ。


色々と成長していますがその分時間も経っているわけで、新ニも三年生となりまた新たに後輩が出てきます。どうも少し部になじんでいないけども、有望な短距離選手の鍵山とかね。新ニが三年生という立場から、部内のことも考えなきゃいけないところも面白かった。
そんな鍵山が絡んでくるのが4継です。粒が揃い始めていますし、部内の選考からして熱い展開が繰り広げられますよ。リレーメンバーの気持ちをまとめなきゃという気持ちとタイムを縮めたいという気持ちが入り混じっていて、読み応えがあります。
強くなったからこそかもしれませんが、新ニがバトンミスによる失格の恐怖が随分増えているような。確かに、バトンをつなげず失格になるのは本当に怖い。全然規模は違うけど、中学の体育祭のリレーでバトン落とした身としては嫌なほど分かる。誰も責めやしないけど、自分自身が情けなくなってくるんですよね。痛い思い出です。


クライマックスの大会では新ニや連だけでなく、根岸や鳥沢や谷口、溝井や双子ちゃんなど三年生の面々がみんな輝いていましたね。最後の戦いにかける思いはみんな熱い。上の大会に望みをつなげたやつも涙を飲んだやつも、みんなかっこいい。マイルとかはもうゴールした瞬間、涙が出てきちゃった。
もちろん別の高校の選手にも魅力的なやつがいるんだけど、見えてる範囲の選手が全部いい結果を残せればいいのにと思っちゃいますよ。
愚直なまでに陸上と向かいあった物語だと思います。色んな人に薦めたくなりますね。とても楽しかったです。


佐藤多佳子さんの作品感想